VR Watch

ルンバという名の妖怪に憑依するVR体験。たかくらかずき×ゴッドスコーピオン「Fullwelt (あめつちほしそ)」

来月8月4日までの会期で展覧会、たかくらかずき展「有無ヴェルト」が銀座の「ガーディアン・ガーデン」で実施中です。展覧会の中には、ちょっと不思議な体験ができるVRがありました。

デジタルの環世界を体感する

ウンヴェルトとは、生物種ごとに存在する知覚世界のこと。ネズミにはネズミの、人間には人間の知覚世界があるように、デジタルにはデジタルの知覚世界がある、という、たかくらかずき氏による問題意識がそのまま展覧会タイトルとなっています。「有無」とは、すなわち2進法のこと。

そんなたかくら氏の問題意識を共有するゴッドスコーピオン氏(Psychic VR Lab)とコラボする形で作られたVR作品が「Fullwelt (あめつちほしそ)」です。

たかくらかずき氏(右)とゴッドスコーピオン氏(左)
Fullwelt (あめつちほしそ)

VRヘッドセットを被ったプレイヤーは、たかくら氏による2次元ドット絵が3次元的に配置されたフィールドにいます。プレイヤーの周りをぐるぐると動き回っているのは、現実世界にも存在する2台のルンバです。プレイヤーがルンバを見つめると、プレイヤーの視点がルンバからのものに切り替わります。言ってみれば、プレイヤーはルンバへの「憑依」を体験できるVRです。

ルンバはVive Trackerによってトラッキングされる
体験中の様子
VR空間内の様子

ゲーム的な要素はありませんし、ルンバへ憑依といっても、VR空間におけるプレイヤーの位置、視点が変わるだけといえばそうかもしれません。が、思わず後から思い返してその体験を反芻してしまう、印象的な作品となっています。

その理由の一つは、「自分自身を第3者の視点から眺める」ことの面白さ。本作ではVR空間にプレイヤーの3Dモデルが配置されているわけではありませんから、ルンバに憑依しても、自分がいるはずの位置に見えるのは、プレイヤーが実際に座っているはずの「畳」だけです。しかし人間のイマジネーションとは面白いもので、それだけで十二分に「ルンバの視点から自分を客観視している気分」になれます。

また、ルンバへの「憑依」自体も興味深い体験です。例えば、VR空間における自身の身長を切り替えることができるVRアプリは多々ありますが、本作もそれに近い、「普段の視点とは違う視点から見た世界」の妙な気持ち良さと気持ち悪さを味わえます。その辺りはたかくら氏による展示会のコンセプト「自分が小さくなったり大きくなったりする拡大率の迷路、感覚の迷路を作る」という部分につながるものです。

すでに自律的に動作している機械に対して乗り移るのもミソ。ゴッドスコーピオン氏は、ルンバのような単機能の機械を「Fuctionableな存在」としての「妖怪」に例えつつ、「Fullwelt」をそうした単機能機械の環世界を味わうための装置として仕立てています。アプリのプロトタイピング中には4時間ほど「ルンバの世界」に入っていたというゴッドスコーピオン氏は、最終的に物理現実世界でも「ビルにぶつからないと曲がれない」と錯覚してしまうまでになっていたとのこと。

制作や展示に使われた「DAIV-DGZ510S1-SH2」

「Fullwelt」の開発においては、マウスコンピューター製のクリエイター向けPC「DAIV」を使用。たかくら氏によるコンセプトをゴッドスコーピオン氏がUnityを用いてVR空間に落とし込んでいます。たかくら氏もUnityで2次元ドット絵を3Dオブジェクトとして空間に配置する作業を行なったとのことですが、バランスよく配置するのはかなり難しかったとのこと。

たかくら氏とゴッドスコーピオン氏は昨年11月も、京都で上演された戯曲「ZOO」で協力し、DAIVとHTC VIveを用いたVRを用いて演劇に融合。見ることと見られることの関係性を問い直すための装置としてのVRという問題意識は、その時から今回の展示会へも地続きになっています。その「ZOO」ですが、今年東京での再演も予定されているということです。

たかくらかずき展「有無ヴェルト」

場所:ガーディアン・ガーデン〒104-8227東京都中央区銀座7-3-5 ヒューリック銀座7丁目ビルB1F開館:11:00 a.m.-7:00 p.m.(日曜・祝日休館)会期:2017.7.11 火- 8.4 金時間:11:00a.m.-7:00p.m.日曜・祝日休館 入場無料主催:ガーディアン・ガーデン協力:HTC NIPPON 株式会社、株式会社マウスコンピューター、株式会社マル・ビ