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ロケーションベースVR協会が活動開始。「13歳問題」などの解決計る

ハシラスやバンダイナムコエンターテインメントなどのロケーションベースVR事業者による業界団体「一般社団法人ロケーションベースVR協会」の立ち上げに関する発表会が都内で行われた。ロケーションベースVRとは、イベントやアミューズメント施設などで来場者が体験できるタイプのVRで、自身でVRシステムを購入して楽しむコンシューマー向けVRと区別する用語。

協会の設立自体は今年5月8日に行われたが、本日、正式に活動を開始。「ロケーションベースVRの一層の普及を図り、ロケーションベースVR市場を拡大し、もって、我が国のイノベーションと産業経済の発展に寄与していくこと」を目的として掲げる。参加社は、7月18日時点でイオンリテール株式会社、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント、株式会社タイトー、株式会社ハシラス、株式会社バンダイナムコエンターテインメント、株式会社フタバ図書(以上正会員)、株式会社リクルートテクノロジーズ(賛助会員)の計7社が名を連ねる。発表された事業内容は下記の通り。

  1. ロケーションベースVRに関する安全性の研究、その規格化及びガイドラインの策定
  2. 風営法に関する諸問題への対処
  3. アワード等のイベント開催
  4. エコシステムの形成、ロケーションベースVR製品の標準化や新技術の評価
  5. その他の各種課題への対処を行うなど、各種の活動を通じて、上記の目的を実現することを目指して参ります。

情報共有などを通して現状の問題を解決

発表会では、代表理事となる安藤晃弘氏(ハシラス代表)、南里清一郎氏(慶応大学名誉教授)、田中茂樹氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント)、田宮幸春氏(バンダイナムコエンターテインメント)らが登壇しロケーションベースVRの現状や将来への展望について語った。

安藤晃弘氏(ロケーションベースVR協会代表理事、ハシラス代表)

協会の設立目的としては、現状のロケーションベースVRにまつわる様々な問題を各社の協力や情報共有で解決していくことがある。現状の大きな問題としては、HMDの2眼立体視が13歳前後以下の青少年に悪影響とされる、いわゆる「13歳問題」や、VR体験施設が風営法における「風俗営業」と見なされてしまうことなどが挙げられる。

安藤氏は、「擬似立体視がダメなら3D映画は全部ダメとなるし、本来ならHMDだけの問題ではない。アメリカ、中国、韓国などでは13歳未満にもプレイさせているし、聞いている範囲では健康問題もない。13歳問題をかたくなに守ると、教育や家庭での交流といった用途にもVRを使えなくなってしまう。13歳以下は絶対ダメ、というのを打破したい」とした。また、現状のロケーションベースVRにおける人件費の問題や、限られた敷地面積あたりの収益率を最大化するための方法なども、各社で情報共有することによって解決していけるのでは、とした。

南里誠一郎氏(慶応大学名誉教授、瑞宝章綬章受勲)
田中茂樹氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント デジタルコンテンツグループ チーフプロデューサー)
田宮幸春氏(バンダイナムコエンターテインメント AM事業部 AMプロデュース1部 プロデュース4課)

慶応大学名誉教授の南里誠一郎氏は小児科医、医学博士だが、ハシラスの吉岡仁氏が南里氏の甥という縁もあり登壇。※当初、安藤氏が甥と表記しておりましたが、吉岡氏の誤りでした。謹んで訂正いたします。13歳問題に関して、12、3歳という年齢の根拠は米国のCOPPA(児童オンラインプライバシー保護法)の影響があるのかもしれないとしつつ、「人間の立体視がはっきりしてくるのは10歳前後、頭部の発達がほぼ完了し瞳孔間距離がそれ以上変化しなくなるのが12、13歳くらい」として13歳問題の根拠について語った。他にも、高齢者の体験におけるショック状態や、てんかんの誘発のおそれなどについても言及し、ガイドライン整備の必要性を示唆した。

ソニー・ミュージックエンターテインメントの田中茂樹氏は、国外のロケーションベースVR施設についての最新情報を紹介。日本のロケーションベースVRは国際的にも通用するIPを利用できるのが強みとした上で、「(ロケーションベースVRビジネスの)動きは海外の方が速い」とした。例えば中国やヨーロッパではVRゲーム専門の施設「VRアーケード」が勃興しつつある。またロシア、香港、アラブ首長国連邦などでも米国のスタートアップが主導してVRアトラクションが多数稼働を予定しているという。また、既存のショッピングモールなどにビルトインする形の中規模施設で、ローカルのリピート来場者をターゲットとする「Family Entertainment Center」が米国や中国でトレンドになってきているという。田中氏は協会への期待感として、こうした情報を会社間で流通し合い、海外との競争に使うというよりは、海外とのパートナーシップを結んでいくための足がかりとして使っていきたいと語った。

バンダイナムコエンターテインメントの田宮幸春氏は、まず先日オープンした新宿のVR ZONEについて触れながら、今後はより小規模の施設を国内外にも展開していく上で様々な課題も出てくるため、そこで業界各社と協力して取り組んでいきたいとした。協会に期待することとして『自制のきいた「挑戦の加速」』という一言にまとめ、「可能性がある業界を最初から規制でがんじがらめにするべきではない。協会を用いて挑戦を加速したい」としつつ「ただ、一線は引かなくてはいけない。それが自制」と語り、人の身体と心への配慮、法令遵守の必要性を強調した。

安全に関するガイドライン作成が喫緊の課題か

ロケーションベースVR協会設立の裏にある問題意識としては、やはり「13歳問題」、「風営法問題」などのウェイトが非常に高くなっているようだ。だが、風営法に関してはともかく、「13歳問題」に関しては、HMDを製造するハードウェアメーカーの協力は避けられないはずだ。

安藤氏は「コンシューマーVRとロケーションベースVRでは(安全に関する)基準も変わってくるのではないか」と話すが、そもそもロケーションベースVRで用いられるHMDの大多数もコンシューマーベースのHMDを用いており、そうしたHMDのインストラクションなどには大抵、12、13歳以下の子供の使用は非推奨、もしくは禁止という旨が記されている。そのあたりのメーカーによる安全基準をある意味ゼロベースとし、新たなガイドラインを作成しつつ、一般向けにも周知していくには、メーカーとの協力が不可欠。このあたりが、協会に求められる当面の課題となりそうだ。