VR Watch

VRコンテンツにおけるCG制作とは

「VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる」より

 VRをビジネスに応用するための基礎知識やノウハウを、VRプランニングの第一人者が解説する書籍「VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる」が3月17日に発売となりました。VR Watchでは、VRが持つ様々な可能性を知ることができるこの書籍の内容を、全4回にわたりピックアップして紹介していきます。

 最終回となる今回は、「第4章 VRコンテンツの制作現場から」より、CGクリエイターへのインタビュー箇所を紹介します。

本書の仕様

VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる(できるビジネス)

価格:¥1,600+税

発売日:2017/3/17

ページ数:192

サイズ:四六判

著者:株式会社アマナ VR チーム

ISBN 9784295000938

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クリエイターインタビュー

CGクリエイター

VRコンテンツに、CGは欠かせない存在です。ただしVRコンテンツをフルCGで制作する場合、360度すべてのグラフィックを作らなければならず、作業量は膨大です。それゆえ早い段階でチームにCGクリエイターに加わってもらうことも大切です。

坂本直樹(株式会社アマナデジタルイメージング)
CMやプロモーションビデオなどを中心に、数多くのCG映像を手がけるアマナデグループの、CGスーパーバイザーを務める。CG制作に関わって18年。制作ディレクターとして現場の指揮を行う。


――VRコンテンツ制作におけるCGクリエイターの役割を教えてください。

坂本 当然のことながら、CGによる360度映像を制作することです。フルCGはもちろん、実写との合成CGなども手がけています。みなさんがテレビでご覧になっているCMのほとんどがCGで制作されているといっても過言ではありません。撮影が難しいものや、実写では表現が難しいものをCGに置き換えるのは、360度映像でも同じです。プランナーから表現したいことなどの相談を受け、どのようにCGで表現すればいいか考えて提案・制作します。

――従来のCG制作とVRコンテンツ用のCG制作では作業面で大きな違いはあるのでしょうか?

坂本 VRのほうが圧倒的に作業量が多い点です。何しろ360度の空間すべてを作る必要があります。VRでは、見えていない部分も作り込まなければなりません。体験者が後ろを振り返ったときに、そこにも映像がなければVRコンテンツとしては破綻します。しかも、ただ作業量が増えただけではなく、より精密に作る必要があります。例えば、コンテに「窓からビルが見える」と指示があったとします。従来のCGならば、表示される角度からきちんと見えればOKだったのですが、360度映像の場合は正面以外からもそのビルを見る可能性があります。少し横に移動するとビルの側面が見えてくるはずですから、そこも作り込む必要があります。

――360度のCG映像を制作するには、何か特別なソフトやパソコンを使うのでしょうか?

坂本 通常のCG制作と同じです。弊社では、主に「Maya」という3D CGソフトを使っています。それ以外のソフトも、シチュエーションに応じて使い分けます。ソフトやクリエイターによっても得意・不得意があるので、パーツやシーンごとに作って、それらをMayaに読み込んで作業します。最終的には「V-Ray」というソフトでレンダリングを行います。Mayaを選んだのは、ソフトとして優れていることもありますが、国内のCG制作プロダクションでも幅広く使われているので、外部の会社との協業もしやすいという事情もあります。
 使用するパソコンは、グラフィック性能が強化されたり、大容量メモリーを積んでいますが、特別なものではありません。ただしVRを扱う場合、ストレージについては注意が必要です。VRコンテンツを制作するようになってからは、データ容量も何十倍にも増えました。先日、ある案件のデータをバックアップしようとしたら、3TBありました。

Mayaのモデリング画面。表示されるオブジェクトは、ひとつひとつ作っていくことになる。さまざまな角度で表示されるものは、見える可能性のある部分も作り込む必要がある

――制作日数はどれくらいかかるのでしょうか? だいたいの目安を教えてください。

坂本 プロジェクトの規模によって異なりますが、われわれが担当した4分ほどのフルCGコンテンツを例に挙げると、10名のスタッフがかかり切りで、完成までに2カ月を要しました。一部は外部にもアウトソーシングしていますので、時間的にはギリギリですね。

――VRコンテンツ用360度映像には、実写が使われる場合もあります。実写よりもCGのほうが優位な点はどこですか?

坂本 VRならではのメリットといえば、CGのほうが立体視の映像を作りやすい点です。立体視とは、左右の目の視差で立体的な視覚を得ることです。つまり、左目の映像と右目の映像をそれぞれ用意する必要があります。これを実写で実現するとなると、本来であれば左右の映像をそれぞれ撮影しなければなりません。そもそも360度の映像を得るために、複数のカメラで撮影した映像を貼り合わせなければならないのに、右目と左目のそれぞれを用意するとなると、単純に作業が2倍になってしまいます。カメラなどの仕掛けも大がかりなってきますし、現実的ではありません。CGならば、3D CGソフトでひとつの映像から視差の異なる映像を簡単に作り出せます。
 ただし、360度のCG映像で立体視を実現するために、リサーチや検証を何度も繰り返す必要があります。基本的には、CG空間に左右の目と同じ間隔でそれぞれのカメラを設置して撮影すればいいのですが、制作物によっては、目が痛くなってくるんです。また立体視の場合、左右の視差がゼロになる位置もできるので、それを制御する必要があります。両者の最適なパラメーターはシーンやカットによって異なるため、何度も試行錯誤を重ねて、気持ちよく見える位置を探ります。

――VR用のCG制作を通して、何か気付いた点や課題などはありますか?

坂本 CGクリエイターに限らず、プランナーやディレクター、演出家、フォトグラファーなどすべてのスタッフがVRに精通している必要があると感じています。例えば、360度映像には「フレーム」という概念がなく、体験者には360度映像の一部分しか見えていません。しかし、その体験者がどのタイミングでどこに目を向けるかは制作者側はコントロールできないのです。そのため、画面の外から何かが割り込んでくる「フレームイン」という演出は使えません。これまでの常識がVRの世界では通用しないのです。監督や演出家もこの事実を理解した上で、コンテやシナリオを用意する必要があります。
 またCGクリエイターも企画の初期段階からプロジェクトに参加したほうが、役に立てます。アイデアの段階で、それが本当に360度CGで実現できるのかをジャッジすることで、無駄な作業やコストを削ることもできます。

――完成したVRコンテンツに対して修正指示が出ると、修正作業も大変なことになりますね。

坂本 ある程度完成した状態から修正が入ると、モデリングやレンダリングを含めて作業が大幅に増えてしまうことになります。そこで、作り直すと全部やり直しになってしまう部分──建物で言うと基礎に当たるところは、あらかじめリストアップしておき、先にチェックしてもらうようにします。実写ならばその場で撮った映像をラフスティッチしてチェックしてもらうこともできますが、CGはそれができませんからね。作業量が膨大になるぶん、事前の確認は大切です。

――VRならではの苦労はどんなところでしょうか?

坂本 ポストプロダクションがほとんどできない点ですね。通常のCGでは、Mayaで完成させたCG映像に対して、あとから2次元上でエフェクトを付け加えることで作品を仕上げることが多いんです。例えば、CG映像にイナズマを付け足したいならば、After Effectsを使えば可能です。でも、VR用の360度映像は2次元上に展開すると歪んだ映像となっているため、エフェクトを加えると違和感につながります。
 あと発光体のオブジェクトも360度のCG空間では扱いづらいです。発光体は、真ん中に芯があって周囲がぼんやりと光ります。周囲の光までCG上で作るとデータが重くなるので、やはりAfter Effectsでオブジェクトの周りに光のぼけを付け足そうとしたのですが、仕上がりを見ると均一に発光しておらず、期待どおりの成果が得られませんでした。通常のCG映像のノウハウが使えない部分は、今もさまざまなトライを重ねています。


いかがだったでしょうか。本書では、他にも「フォトグラファー」「映像編集者」「エンジニア」の方々へのインタビューや、VRのビジネスソリューションの実例などが数多く紹介されています。気になる方は是非、実際の書籍を読んで確認してみてください。