VR Watch
VR企画を社内で通すのに重要な「プランニング」
「VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる」より
2017年3月17日 11:00
VRをビジネスに応用するための基礎知識やノウハウを、VRプランニングの第一人者が解説する書籍「VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる」が本日3月17日に発売となりました。VR Watchでは、VRが持つ様々な可能性を知ることができるこの書籍の内容を、全4回にわたりピックアップして紹介していきます。
第2回となる今回は、「第3章 VRのビジネスプランニング入門」冒頭、企業で実際にVRを導入する際の手がかりとなる「プランニングの導入」の部分を紹介します。
プランニングの導入
VRコンテンツのレベルを上げるための知識を持つ
ここまでの章で、VRに関する基礎的な知識について説明してきました。そこからビジネスに結び付けるためにVRのコンテンツを考えたり、それを実現していく際には、さらに深いレイヤーまで理解を深めていく必要があります。
実際にプランニングするのは、制作プロダクションのディレクターやプランナー、各クリエイターになると思います。ただし、コンテンツに関わるスタッフ全員がVRに関する深い知識を持っていれば、スタートが非常にスムーズになります。
この章では、VRコンテンツを実現する際、あらかじめ理解しておくと、各所での打ち合わせなどが非常にスムーズに行えると思われるプランニングのポイントをピックアップして、紹介していきます。まずはプランニングに入るための知識、続いてコンテンツ制作、そしてVRコンテンツ体験ブースなどの現場で必要になる知識を説明していきます。
- プランナー
- VRコンテンツの場合、クライアントの要望や解決したい課題を聞いて、コンテンツを考える立場。制作するスタッフのアサインなども行う
- ディレクター
- 映像作品の監督。コンテの作成の他、シーンの演出や演技の指示、カメラワークなどを指示する
VRコンテンツが「つまずく」いちばんの理由は?
こんなご相談を受けることがあります。
「VRを使って何かしなければならないのですが、どうすればいいですか?」
矛盾するようですが、VRのコンテンツを考えるときにまず気を付けたいのは、「VRを使うこと」が主目的になってしまっていないか、という点です。VRは、テレビCM、ウェブサイトに掲載する写真、YouTubeに投稿された映像、電車内の中吊りなどと同様、人に何かを訴求するための選択肢のひとつでしかありません。仮にすでにVRを使うことが前提になっている場合でも、さまざまな方法がある中でどうしてVRを選ぶべきなのか、一度立ち返ることをおすすめします。
例えば、テレビCMは視聴者がとても多いため、一度に大勢の人々に訴えることができます。それに対してVRコンテンツは、体験人数は少ないものの、疑似体験を提供することで強烈な印象と理解の定着が期待できます。テレビCMが広く浅く伝えるツールであるならば、VRは狭く深く伝えるツールと言えます。このようなVRコンテンツの特性を理解した上で、何を解決したいのか、何を実現したいのか、課題を明確にし、その課題を解決するためのVRコンテンツの役割は何か、他にもっといい方法はないのか、客観的に考える必要があります。この段階では、明確な答えが見つからなくても構いません。導入の際にこの点を考えておくことが重要なのです。「とにかくVRを使わなければならない」という理由だけでは、効果的なVRコンテンツが出来上がる可能性は低く、その結果、プロモーションなどの目的が達成できない可能性が高いのです。
VRのことを知らない体験者を意識する
VRコンテンツを体験してもらうには、コンテンツにだけ気を遣うのではなく、体験者がどのようなタイプの人になるのかをしっかりと理解しておくことも重要です。VRという言葉は市民権を得つつありますが、それが具体的にどういったものなのかという理解は、思った以上に進んでいないのが実情です。そして理解が進むには、まだ時間はかかりそうです。
特に、プロモーションなど一般向けにVRコンテンツを提供しようとしたとき、その体験者には次のような課題があります。
- VRコンテンツを閲覧するための装置を持っていない
- VRコンテンツに対してリテラシーがついてきていない
- VRの体験を通して何ができるのか、前情報を持っていない
それに対して、以下のような対策が必要になります。
- 体験者するための装置と場所を用意する
- リテラシーが足りない部分を補足する説明を加える
- 例として「こんなことができる」というサンプルを用意する
こういった対策は、当面必要になるものと思われます。VRのプランを考えるとき、この「体験者の理解度はまだ低い」という点を忘れないようにしましょう。その上で、先述した対策のような、スムーズに体験してもらうための前準備がどの程度必要なのかしっかりと考えておきましょう。
「VRは費用対効果が低い」と言われたときの対策
イベントでのVRコンテンツ施策では、体験人数に限界があります。しかし、せっかく時間とコストをかけて作る作品なのですから、より多くの人に体験してもらいたいでしょう。
VRコンテンツの体験者数は、1回に1~4名程度が一般的です。コンテンツの長さによりますが、事前説明、VRゴーグルを被る、コンテンツを体験してもらう、VRゴーグルを外す、事後説明を加えると、1組あたり5~10分は必要です。1時間6~12組、1日8時間実施で48~96組、仮に1組最大4人とすれば、192~384人が体験できることになります。仮に1日400人体験できたとして、それを3日間のイベントで使用した場合1200人です。VRコンテンツの制作と、会場のブースの施工費、ウェブサイトなどのプロモーションツール、担当者の人件費などを含むと、費用はすぐに数千万になります。仮に3000万円の予算だったとすれば、3000万円/1200人で1人当たり2万5000円の計算です。通常の広告宣伝費で考えると非常に高コストで、スムーズに社内承認を得るのは難しそうです。
こうした事情を踏まえて、実際には、制作したVRコンテンツをイベント以外に転用することも少なくありません。手軽な例としては、イベント用に作ったVRコンテンツをYouTubeに掲載し、誰でも見られるようにするという方法があります。こうすることで会場以外の場所でも簡易型のVRゴーグルとスマートフォンさえあれば、取引先や関係者に体験してもらうことができるようになります。また、YouTube上では通常の単眼モードでも閲覧できるので、VRゴーグルがなくても見てもらえます。また、イベント用に制作した作品が、そのままでは掲載できないインタラクションの付いたVRコンテンツだったとしても、それをYouTubeに掲載できるVR映像やプロモーション映像に改変することで体験人数が飛躍的に向上するのであれば、コストパフォーマンスとしては悪くないはずです。
さらに、ウェブでの広告出稿予算があれば、FacebookやYouTubeなどのSNS広告(※)を利用することでそのまま広告に転用することも可能になり、再生数を伸ばすことができます。YouTubeという他社のインフラに依存することにはなりますが、利用者数は非常に多いため、操作方法などの障壁が低く、メディアに対する信頼感もあります。またストリーミング用のサーバーを別途用意するとランニングコストがかさみますが、YouTubeであればそういった心配もなく、そもそもサーバー保守の必要がなくなるため、メリットは多いと言えます。自社のウェブサイト等に転載することも可能になるので、既存のユーザーにもコンテンツを届けることができます。
(※)SNS広告:FacebookやYouTube、TwitterなどのSNSに出稿する広告。動画の投稿をそのまま広告にして、出稿することが可能
このような方法でコンテンツ体験者(視聴者)を増やせば、1人当たりのコストは数百円までに落とすことができ、VRコンテンツの実施を自信を持って推せるようになるでしょう。実際、プランのご相談に乗っていても、いざ制作コストに話が及ぶと制作費を見て尻込みしてしまうクライアントもいます。イベントだけで考えてしまうと費用対効果がとても悪く見えますが、展開案を併せて提案することで改善が望めます。費用対効果を高めるための展開案を持って、プランを考えることをおすすめします。
VRを使って直接的に売上は伸ばせるのか
前項では費用対効果について体験者数を例に挙げましたが、直接的な売上アップを目標とするケースだとどうでしょうか? 現時点では、ゲームなどのエンターテインメントコンテンツなどを除いて、直接的な売上を目標にして結果を出すのはまだ難しいと感じています。VRコンテンツで売上に直結させる場合、次のようなケースが考えられます。
- VRコンテンツ自体の販売
- VRコンテンツ内での商品の購買
- VRコンテンツ体験ブースでの物販
1のケースでは、ゲームがまず挙げられます。また「VR船艦大和」などの体験型のコンテンツも新しい切り口の商品として登場し始めており、こういった市場も、この先は期待できそうです。ただし、現時点でVRは専用のヘッドマウントディスプレイが必要であったりと、ユーザー数が限定的です。ゲーム自体の人気や魅力が最も大きな要因ではありますが、今後のハードウェアの売上に合わせて市場も伸びていくことが予想されます。
2、3のケースは主にプロモーション的なアプローチになりますが、先述したとおりイベントでの体験者数はそれほど多くありません。ブースやコンテンツ内で何かを販売するという目的とVRは、あまり相性がよくないでしょう。この点については、今後の技術の進化や一般ユーザーへの認知拡大に期待したいところです。
なかなか埋まらないVR体験者と非体験者の溝
VRという新しいプロジェクトを進めようとする場合、多くの担当者はさまざまな障壁にぶつかることになると思います。それは、予算であったり、制作者のアサインであったりと、他のコンテンツを制作するときと同様のものもありますが、最も大きな障壁は、制作サイドのVR体験者と非体験者との間にある溝の深さです。これがネックになって話が進まないケースは多々あります。
VRはまさに「体験」をウリにするコンテンツです。そのため、一緒にビジュアルを見て解説したり、自分が体験した感覚を口頭で説明したりすることが難しいものでもあります。会議の場で「没入感がスゴイ!」と伝えたところで、非体験者からは「それは本当に効果あるのか?」「体験者に伝わるのか?」と返されかねません。この体験者と非体験者の差を埋めない限り、担当者はその点において苦労し続けることにもなりかねません。
こうした事情を踏まえて、われわれの場合、VR未体験の方にプレゼンする際には必ずVRコンテンツを持参して体験してもらい、VRの特徴を理解してもらってから話を進めるようにしています。もしあなたがVRコンテンツのプランを進める立場にありながら、VRを体験したことがないのであれば、まずは自分が体験するべきです。その上で、プロジェクトの承認をする上司や、提案を検討するクライアントがもしVRを体験したことがないということであれば、体験してもらう機会を作ることを強くおすすめします。
昨今、VRアミューズメントも増えてきており、VRコンテンツを体験できる場も増えています。またVRコンテンツを制作しているプロダクションであれば、コンテンツも装置も用意できるので、プロダクションを巻き込むなどして、社内承認が円滑に進むように工夫しましょう。