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HoloLens日本版レビュー。使って感じた「未来感」と「可能性」

VRメディア概論 ~VRビジネスの最前線より~ #04

お久しぶりです。最新のMRデバイスとして話題を呼んでいる「Microsoft HoloLens」。ついに技適も通過して今年1月に発売されました。弊社(テレビ朝日メディアプレックス)でもさっそく開発機材として入手しましたので、まずは使用レビューをしてみたいと思います。

日本でも入手できるようになった「Microsoft HoloLens」

そもそもHoloLensとは何か

Microsoft HoloLensは、Microsoft社が発売した最新のMR(Mixed Reality)端末です。
以前にも触れましたが、MRはVRとも違う概念で、特に決定的に違うのは、現実の映像を見ている際に、現実の光景とデジタル映像を重ね合わせ、まさに現実とデジタルを”Mix”して体験できる点です。

VRの場合、ヘッドセットをかぶると現実は完全に見えなくなり、バーチャル空間に完全に没入しますが、MRはむしろ現実を基本として、現実にデジタルの情報を付加したり、デジタルのオブジェクトが現実の地形の起伏にそって配置されたり、といった現実とデジタルの相互作用がキモとなります。また、現実の映像が見えているので、MRデバイスを装着したまま部屋を歩き回ったり、(人目を引くことを恐れなければ)外に出て移動することも問題なく可能です。

第一印象

HoloLensの第一印象は、「SFっぽくてカッコいい」。ただしこれは単体で見たときで、これを装着してなお「カッコいい」と言えるのはかなり”イケメンに限る”ことも確かでしょう。

Google Glassなどのスマートグラスデバイスに比べるとかなり大きい印象。ただし、レンズとディスプレイ装置とのあいだに一定距離が必要なVRヘッドセットに比べると、メガネ部分の奥行きはさほどありません。

HoloLensは、Oculus RiftやHTC VIVEと違い、CPUなどの“頭脳部分”やOSを内蔵しています。いってみれば、1つのWindows PCが内蔵されている装置です。これっぽちのサイズ・重さの中に、これだけの処理能力があるPCと、さらに各種センサーまでも内蔵したというのは驚きです。

HoloLens本体写真

上から見たところ
後頭部。このダイヤルでサイズを調整する。
表示部分
後頭部部分を下から見たところ。MicroUSB端子とヘッドフォン端子が見える。

装着したときの見え方

実際に装着してデモなどを体験すると、現実の映像とCGが自然になじんでいることに驚きます。以前にスマートグラス端末を体験したことがありますが、実際の映像を見るときとCG映像を見るときで、眼の焦点を微妙に合わせ直す必要があり、これがけっこう疲れます。そもそも、同じ焦点で現実とCGを同時に見ることができないと、そのふたつが重なり合って見えず一体感もありませんでした。HoloLensでは、そうした従来型スマートグラスの欠点が見事に解決され、現実とCGを見るときの焦点が全く同じであることに非常に感激します。

装着感

かぶり心地ですが、HoloLensは丸い輪っかのようなところに頭を入れ、ダイヤルで締める方式になっています(いわゆる自転車用のヘルメットに似ています)。VRヘッドマウントはいまだに布製のベルトで締めつけるものが多く、それに比べるとかなり洗練された方式です。

ただし、本体の重量が結構あるため、かぶっていると鼻を支える所(ノーズパッド)に本体の重量がかかります。短時間であればさほど問題ありませんが、長時間かぶったまま開発していた弊社スタッフは「鼻が痛い」とこぼしていました。開発をストップするわけにもいかないため、せめてものクッション用に「PSVR用防汚マスク」という布マスクを装着し、痛みに耐えています。

HoloLensの各種機能について

HoloLensの最大の特徴として、今見ている実際の風景をリアルタイムで認識し、「メッシュ」として構成してくれます。つまり、目の前の机や壁、人間などが瞬時に「ポリゴン」として認識されるのです。言ってみれば「瞬時に地形を3Dスキャン」してくれるということです。

地形を認識したメッシュをワイヤーフレームのようなポリゴンとしても表示することができますが、これがまた未来的で面白いのです。この例えを言うと年がバレてしまいますが、1982年に公開された映画の「Tron」を思わせる未来感です。これは感激します。

さらにHoloLensは、手のひらのジェスチャーで操作することが可能です。カメラの前に手を出して、オプジェクトをタップしたり、つまんで移動したりできます。HoloLensを装着してこのようなジェスチャーで作業しているのは「マイノリティ・リポート」を思わせこれもかなり“SFチック”です。

ただしこのジェスチャー、一度慣れると簡単なのですが、初心者が習得するのに一定の時間が必要です(とは言っても10分程度?)。イベントやデモなどではじめて体験する人が、その場で操作できるようになるのは正直難しいです。個人的にはジェスチャー機能がなくてもいいので、もっと廉価なバージョンを出してほしい、と感じてしまいました。

開発の際に困ったこと

HoloLensアプリはUnityで開発可能です。具体的にはUWPアプリとしてビルドすることになります。我々はUWPアプリの開発は今回が初めてだったのですが、通常のWindows向けのExeのビルドに比べると使えないライブラリなどが多く、ショックを受けました。UnityのVRアプリに比べるといつも使っている手法が使えないなど、かなり戸惑う点が多く、簡単なアプリを開発するだけでも当初よりも手間がかかったりしましたので、注意が必要です。

HoloLensの可能性と今後の展望

HoloLensはVR開発者の間でも注目されています。特に、新しもの好きな開発者にとっては、ある程度世間で知名度を得てしまった「VR」に比べて、“より新しくチャレンジングなデバイス”として興味深い存在でしょう。

実際に社内展示会で、「HoloLensを装着し、大画面テレビでスポーツ中継を見ながら、試合のテロップ情報やCGによるハイライトシーンのリプレイを重ね合わせて表示する」というデモを試作した所、いわゆる技術に詳しくないテレビマンの間でもかなり好評でした。

VRのように没入せず、日常生活を送りながら楽しめる“MR”は、いわゆる「リア充」な方々にも受け入れやすいコンセプトだと思います。VR機器メーカーは新興企業が多いですが、VRに参入していないMicrosoftやAppleなどの大企業が、VRではなくMRに着目しているというのも特徴です。

アトラクション、あるいは新たなゲームデバイスとして。当初から使用目的が明確だったVRに比べ、現時点でMRは「なんだか未来的ですごいけど。何に使っていいのかわからない」というのが現状だと思います。工場や病院のマニュアルなど、スタッフの教育目的もありますが、こういったB2B用途は一般の人には伝わりにくいところ。Microsoftも用途を定めず、まずは「世に出してみてどのような使用目的があるのか見定めたい」という節も感じられます。現時点ではDeveloperバージョンで30万円超と、価格が高いのも気になるところです(PCを内蔵し、さらに各種センサーがてんこ盛りなのでしょうがないですが)。

これは私の想像に過ぎませんが、MicrosoftはHoloLensの展開として当初B2Bをメインに考えていたが、現状の盛り上がりを見て「B2Cデバイスとしていけるのではないか」と思い始めているところだと思います。

B2C用途では、一般消費者のお財布でも買いやすいよう、もっと値下げをする必要あり、必然的にコストダウンの必要性が出てきます。現在のHoloLensの使用動向を見極め、その目的に合致した機能を強化し、使われなかった機能はざっくり削ることによって普通の人にも買いやすい価格までコストダウンを図った次世代機を出してくるのではないでしょうか。

PC内蔵というところから考えると、10万円台後半、できれば15万円前後で
出てくれば非常に魅力的な商品になると思います。PC内蔵なので、Web閲覧やエクセルなど、今までPCやスマホで行っていた作業をHoloLensで代行するようにもできると思います。

HoloLensを装着しながら会議。会議しながら資料を見て、その場で情報を検索して全員の端末に展開、議事録も自動作成する。そのような未来もすぐそこかもしれません。

阿部聡也

株式会社テレビ朝日メディアプレックス クリエイティブ事業部 ビジネスプロ デューサー。ITベンチャー、通信会社にてブログサービス、動画投稿サービスなどの新規立ち 上げを経て現職へ。現在VRコンテンツ開発事業"VR-plex"や技術研究を中心に 活動中。