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いま「買い」のVR/ARとは? 「VR/AR Investors Meetup #1」レポート

「VR/AR Investors Meetup」は、グリーが設立したVR/AR向けファンド「GVR Fund」による勉強会。GVR Fundが活動の中で得た業界の最新動向や知見、また業界の第1線で活躍するゲストからの情報などを直接得られる貴重なイベントだ。

去る2017年2月7日に実施されたその第1回に参加することができたので、その模様をレポートしていこう。なお、各セッションでは様々な資料や数字、具体的なスタートアップ名が数多く飛び出し非常に濃い内容だったが、有料イベントということもあるので、なるべく内容のエッセンスのみ抜き出していくことにさせていただく。

GVR Fund 筒井氏による2016年、そして2017年のVR/AR環境

最初に、GVR Fundの筒井鉄平氏によるセッションが行われ、VR/AR市場の現状や、VRの今後の進化の可能性と、それを探る具体的なスタートアップの紹介が行われた。

GVR Fund 筒井鉄平氏

筒井氏によれば、VRヘッドセットは、PC向けやモバイル向け等をひっくるめて、すでに世界で700万台程度販売されている。ただし、そのうちの約500万台がGear VRとなっており、Samsungにけん引されている部分が大きいという。700万台という数字はゴールドマンサックスが2016年に出した分析の中の楽観的な数字にかなり近いものとなっているが、成長カーブはスマートフォンに比べればゆるやかであり、普及にはまだ時間がかかると分析。とはいえコンテンツに関していえば、Steamでの展開を中心に売上が1億円を超えるレベルのVRゲームコンテンツも複数登場してきているとのことで、環境は整いつつあると言えそうだ。

さらに筒井氏は、今後のVRの進化の方向性についても解説。「(VRデバイスの)スタンドアローン化」「映像の高度化」「コンテンツ制作・配信の整備」の3つのポイントを指摘し、それぞれの分野の代表的なスタートアップとあわせて紹介した。

AR分野に関しては、2017年はARグラスのハードウェアがいよいよ出揃いそうであるとし、HololensをはじめとするB2B向けのハードはもちろん、初のコンシューマー向けARグラスをリリースするODGなど主要なプレイヤーを紹介した。

Colopl VR Fund 井上氏による投資戦略

続くセッションは、モバイルゲームで知られるコロプラ発の投資ファンド「Colopl VR Fund」の井上裕太氏から、ファンドの投資戦略や、実際の投資対象となっているスタートアップについて語られた。

Colopl VR Fund 井上裕太氏

昨年1月からVR分野への投資を行ってきたColopl VR Fundの特徴は、シード期からレイター期まで投資対象を広く展開してきたこと。分野に関してもハードからソフト、コンテンツまで幅広く投資してきたという。代表的な投資先としては、日本の「DVERSE Inc」や「FOVE」、VRアドネットワークを提供する「Immersv」、EスポーツのVR中継を実現する「Silver.tv」、360度動画共有プラットフォーム「Pie」、人気ゲーム「Candy Crush」の開発者が創業し、F2PのモバイルVRゲームに挑戦する「Resolution」などがある。

他にも井上氏は、産業向けVR、技術投資関連、アミューズメント、インキュベーション分野などにおける数多くのスタートアップを紹介。

これからの投資方針に関しては、産業用やスポーツなど、今後立ち上がりが予想される分野への投資を拡大する考えを示した。

HTC Nippon 西川氏が語る、HTC VIVEの現状

続いて、HTC Nippon株式会社でHTC VIVEの事業を担当する西川美優氏からVIVEの現状が語られた。

HTC Nippon 西川美優氏。VIVEロゴのTシャツで登場

まずVIVEの出荷台数に関しては、HTC社内で想定した通りの出荷台数を達成できていることをアピール。その背景には製品を安定して各地に供給できていることが大きいとした。

また、今年初めのCES2017にてVIVE用の各種アクセサリーを発表したことにも言及。様々なものに取り付けて「VR空間に持ち込む」ことを可能にする「VIVE Tracker」や、VIVEを無線化する「TPCAST」など注目度の高いアクセサリーを紹介。TPCASTに関しては、HTCが主催するインキュベーションプログラム「VIVE X」の第1期生となる。

「VIVE X」は、VIVEをプラットフォームにして事業を展開したいスタートアップの支援プログラム。すでに第2期生の募集が終了し、現在は審査中と話した。応募状況としては、ハードとソフトの割合は「いいバランス」で構成されているとのことで、VIVEを中心にしたエコシステム育成が順調なことをアピールした。

2017年のVRはどうなる? プラットフォーム育成が鍵になるか

続いてのセッションは、筒井氏が投げかける質問に井上氏と西川氏が答えるという形式で進んだ。

2016年の所感について聞かれた井上氏は「VRで会社を起こす人がとても多かった」と語り、ハード、コンテンツから配信技術、制作ツールまで様々なスタートアップが次々に登場した驚きを語った。西川氏は、「会社によってVRやARへの取り組みのスピード感が全然違う」と指摘。社内でVR/ARへの動きをドライブするインフルエンサーが存在するか否かによって、企業のあいだで取り組みの内容や規模にはっきりと差が出てきてしまっているとした。

2017年の方針については、井上氏は昨年投資できなかった「オーディオ」の分野に注目しているとし、特にVR酔いにおける聴覚の重要性という意味では、「個人的に注目度はハプティクス(触覚)よりも上」と語った。また、フォトグラメトリー技術やグラフィック処理の最適化技術などに注目していることを明かし「ミドルウェアに投資妙味がある」とした。

西川氏は、現在HTCがVRへの投資プラットフォームを全部で4つ保有していると明かし、VRの技術、コンテンツなどへの積極的な投資を通じてVIVEのプラットフォームを拡充していく考えを示した。

続いてはARへの取り組みに関する質問。井上氏は、昨年投資したAR関連企業は1社だけだが、今年はARに割く割合を増やして行く意向を示した。日本でのAR普及に関しては、ARプラットフォームを擁するAndroidが日本では普及率が低いため、たとえばAppleからなんらかの起爆剤があれば、と期待を語った。

西川氏は、VIVEにはフロントカメラが装備されておりAR的な使い方も可能だが、カメラの解像度が低いためあまり利用されていない、と課題を語った。ただ、VIVEトラッカーもAR的な試みに利用することができるので、今後VIVEをAR分野に応用しうる可能性は十分にあるとした。

最後にVR/ARのコンテンツ配信プラットフォームに関して。井上氏はコロプラ傘下の360度動画配信サイト「360 Channel」について、「低品質なコンテンツがあふれてしまうとつらいので、少なくとも最初はCGM的なプラットフォームは流行らないだろう」という読みで作られたサービスであるとし、「現状はお金をかけて良質なコンテンツを投入していく必要がある」とした。

西川氏は、引き続きSteamとViveportを中心に展開していくとした上で、「ハードウェアとプラットフォームは両輪」と指摘。他のあらゆる分野と同様、プラットフォームがあってこそのハードウェアであるとし、双方ともに強力なHTC Viveの優位性をアピールした。

ちなみにセッション中、筒井氏が西川氏に対し「VIVE2のうわさは本当?」などきわどい質問を投げかける場面もあった。西川氏は先ごろ広まった「VIVE2」のうわさに関しては「完全にメディア先行だった」と前置いた上で「台湾の本社に行くとプロトタイプがたくさん転がっていて、どれが(将来)出るものでどれが単なるガラクタなのかわからないが、当然、どこかのタイミングで次世代機は出る」と語った。

シリコンバレーのVCが語る注目企業は「VRトレーニング」

最後のセッションは、VR/AR専門のベンチャーキャピタル「Presense Capital」のAmit Mahajan氏が登壇した。

Presense CapitalのAmit Mahajan氏

幼少時からゲーミングや3D CGに親しみ、高校時代にゲームエンジンを制作、その後Epic GamesでUnreal Engineやゲーム制作に携わったあとにモバイルゲームの会社を創業、最終的にはGoogleに加わったが「6週間で辞めた」というAmit氏が「VRに注目していたので、なにか新しいことを始めたかったが、やりたいアイディアが多すぎたので投資ファンドをすることにした」といって創業したのがPresense Capitalだ。現在はVR関連の企業26社にシード段階から投資しているという。

投資家として注目するVR分野については「VRトレーニング」の分野を挙げるAmit氏。その理由は「ビジネスとしてきちんと回っているから」。VRトレーニングは、VR空間で実際の状況をシミュレートすることでジョブトレーニングなどの効果を向上させることができるもの。主に企業向けに提供されており、価格はかなり高いが、実際にその額に見合った効果が出ているため、現状でもしっかりビジネスとして成立しているという。

Amit氏が考えるVRトレーニングのもうひとつのポイントは、社会にまつわる問題を解決できるということ。VRトレーニングを活用することで、転職者へのジョブトレーニングのコストが軽減し、雇用の改善が見込めるなど、実際に社会に存在する問題をVRで解決できることが重要だという。

また、ソーシャルVRに関して「知らない人とVR空間で集まる必然性が必要」とした上で、「テーブルトップゲームは本質的にソーシャルだ」と語り、多人数で遊べる手軽なゲームとソーシャルVRの相性の良さについて語った。

VR+ソーシャルの可能性はどこにある?

勉強会終了後にはGVR Fundの筒井氏に話をうかがうことができた。

GVR Fundはソーシャル出身のグリーから出たものということで、投資対象もソーシャル要素があるものが多い。筒井氏はソーシャルVRに関して、「VRChat」や「AltspaceVR」などを筆頭に「数は出てきている」とした上で、ソーシャルは行っても何をしたらいいかわからないことも多いので、「VRソーシャル空間で何をするか」が重要になってくると語る。

そうなると、まず出てくる要素は「ゲーム」であり、現在でも「Experiment 7」や、「REC ROOM」といったソーシャル+ゲームのVRサービスが登場しているとした。また、VRによって「どんな体験でもソーシャル化」していく可能性についても言及。たとえばGVR Fundが投資している「VRChat」に関して言えば、VR空間内のコンテンツをUnityを使ってユーザーが作成できると語り、様々なコンテンツをVR化できるプラットフォームとしてのソーシャルVRの可能性を示唆した。

また、筒井氏はソーシャルVR普及のために必要なこととして、「規制」と「実体験に近づくこと」を挙げた。「規制」に関しては、 Linden Lab社の「Second Life」が最終的にはなんでもアリの無法地帯と化したことが学びとされており、たとえば「VRChat」ではルールづくりに非常に気が配られている、とした。