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VRアトラクション設計時の心構え

VRメディア概論 ~VRビジネスの最前線より~ #02

さて、今回はVRのイベント・アトラクション・コンテンツを開発する際、イベントという特性を考えた時にどのように気をつけて作るべきか、という的なお話をしたいと思います。

今主流のVRヘッドセットは、もともと家庭用ゲームデバイスとして設計されたという経緯があります。そのため、イベント用のVRアトラクションを作る際も、ゲームと同じ感覚で開発される方も多いと思います。

しかし、VRをいわゆる「イベント・アトラクション」として展示する際は、ゲーム文化とはまた違った、イベントアトラクションならではの対象ユーザーや状況を想定して設計する必要があります。

下記に、実際にその項目をまとめてみました。もちろん、まだまだ過渡期の産物であり、我々のノウハウも完璧とは言えない状態ですが、同様の開発をする方の参考になれば幸いです。

体験する人は、まさにその体験が「最初で最後」

一般的なゲームは、プレーヤーが何回も繰り返しプレイし、熟練することを前提に設計されいます。しかし、VRイベント・アトラクションの場合、プレーヤーはほとんど全員が「最初で最後のプレイ」となります。

そのため、「どんなに不慣れな人でも最後までできる」くらいの難易度が要求されます。例えば「ゲーム」の横スクロールアクションであれば、プレーヤーが全く操作しなければそのまま時間が経過し、そのうち敵にやられて終わってしまいますが、VRアトラクションでは、そうした場合に何も体験できずに終わってしまうのは、あまりに不親切ということになります。

遊園地のアトラクションのように、プレーヤーは一切何もしなくても、勝手に移動などして最後まで楽しませる、という基本が大事で、プレーヤーが何かアクションを起こせるようなコンテンツの場合にも、上記の引かれたレールの上での限定された自由、というのが理想です。

また、操作が必要なコンテンツの場合にも、操作体系はなるべくシンプルにした上で、説明はVR内だけではなく、プレイ前に現実のパネルの表示を見てもらう、十分口頭で説明する、などの工夫が必要となります。

体験する人はコンテンツ内のテキストはあまり読んでくれない

イベントにおけるプレーヤーの心理は一種の興奮状態にあるので、VRコンテンツ内に細かくテキストを書いても、目には入っていてもあまり読んでくれないと思ったほうが賢明です。

本当に伝えたい事は

・ヘッドマウント装着前に口頭で伝える
・テキストではなくチュートリアル的な音声で伝える

などの配慮が必要です。

この時のチュートリアルは、ソーシャルゲームのチュートリアルのように「何かアクションをしないと次に進めない」ようなものにすべきではありません。あくまで視覚と音声でわかりやすく伝えるという意味でのチュートリアルです。

VR独自のUIはわかりづらい

VRアトラクションのユーザーの多くは、VRにもゲームにも詳しくない一般の方です。短時間のプレイの中でVR独特のUIを理解して実行させるのはほぼ無理だと思ってください。複数のメニューから選ばせるような操作は、口頭で会話しながらオペレーターの人が代わりにやってあげるほうがはるかに早いでしょう。VRでよくある「メニューを視線で選んで時間経過で確定」というUIは、初見のの一般人にはまず無理です。

体験する人は乗り物酔いをしやすい体質かもしれない

VR開発をする側からすると「何をいまさら…」と思うかもしれませんが、一般の方は今のところVRにはさほど詳しくありません。事前に「乗り物酔いする可能性があります」とパネル及び口頭でしつこく告知しておかないと、結果的にユーザーに不快な体験をさせてしまう可能性がありますし、そのような事態は極力避けるべきだと考えます(もちろん酔いにくいコンテンツにする努力をすることは大前提です)。

パネルでの告知文は遊園地の絶叫系アトラクションの注意書きが参考となるでしょう。

例文:
「このアトラクションは乗り物酔いをする可能性があります。体調の悪い方、酒気帯びの方、および乗り物酔いをし易い方はご遠慮ください」

体験する人は、VRが振り返って見られることを知らない

VRの特徴は「360度振り返ってまわりを見渡すことができる」ところにありますが、そうした前提を何も伝えずに体験してもらうと、よく知らないユーザーは最初から最後までまっすぐ前を向いたまま終わることがあります。必ず「後ろを振り返ったりして全方向見れますよ」と口頭及びVRコンテンツ内のチュートリアルなどで伝えてあげてください。

体験する人は、見てほしいところを見てくれるとは限らない

これは上の項目と逆のパターンです。VRは好きな方向を見ることができるため、作り手が「前を向いている」ことを想定して面白い仕掛けなどを作っておいても、たまたま別の方向を見ていてせっかくの仕掛けを見てくれない可能性があります(お化け屋敷のVRコンテンツを作った際に、せっかく怖がらせる仕組みを作っていてもそちらの方を見てくれなかったことが頻発しました)。

プログラム側で、見ている人の視線の方向に出現するようにする、コンテンツの作りや音声などで見て欲しい方向に誘導する、などの工夫が必要になります。

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これ以外にも多々あるとは思いますが、VRアトラクションのコンテンツ開発を行う際には、このような点について配慮しつつ設計をすると、いざ現場で混乱するようなことは減らせるのではないでしょうか。

阿部聡也

株式会社テレビ朝日メディアプレックス クリエイティブ事業部 ビジネスプロ デューサー。ITベンチャー、通信会社にてブログサービス、動画投稿サービスなどの新規立ち 上げを経て現職へ。現在VRコンテンツ開発事業"VR-plex"や技術研究を中心に 活動中。