ドイツLilium社は2017年5月9日、シリーズB投資ラウンドで、9000万ドル(99億円:1ドル=110円で換算、以下同様)を調達したと発表した。今回はLGTリヒテンシュタイン銀行のほか、中国Tencent社、イギリスのベンチャーキャピタルであるAtomico社、アメリカのベンチャーキャピタルObvious Ventures社などが出資に応じた。Atomico社はSkypeの共同創設者であるNiklas Zennstrom氏が設立したベンチャーキャピタルで、Lilium社のシリーズA投資ラウンドでも出資に応じている。また、Obvious Ventures社はTwitterやMediumを創業したEvan Williams氏が立ち上げたベンチャーキャピタルだ。

 Lilium社はミュンヘン工科大学の大学院生が、2015年に共同で設立した企業。電動の小型飛行機を使った「空飛ぶタクシー」サービスの提供に向けて研究開発に取り組んでいる。2017年4月には、試作機の無人試験飛行に成功しており、2019年には有人の試験飛行に挑む予定だ。そして、2025年に空飛ぶタクシーの商用サービス提供開始を目指している。

 Lilium社が開発している小型機は、固定翼型で電動のジェットエンジンを搭載している。翼に設置してある多数のジェットエンジンが離着陸時は下を向き、飛行時は後を向くことで、VTOL(Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸)が可能になっている。つまり、滑走路などは必要なく、ある程度の広さの土地があれば簡単に離着陸できるということだ。そして電動ジェットエンジンは燃料を使わないため二酸化炭素を排出せず、ほとんど騒音を発しないという。

Lilium社が開発している小型機。翼についている多数のジェットエンジンが、離着陸時は下を向く

 機体はまだ開発中だが、Lilium社は最高300km/hで飛行できて、1回の充電で300km飛行できる5人乗りの機体を開発するとしている。また、実際の運用が始まったときのシミュレーション結果も提示している。例えば、ニューヨークのマンハッタン島から、ジョン・F・ケネディ国際空港まで、タクシーで移動すると、あちこち曲がりながら道路を走ることになる。その距離は26kmになり、到着まで55分かかる。そして運賃は56ドル(6160円)~73ドル(8030円)となる。

 Lilium社の小型機なら、空を飛ぶので最短ルートで移動できる。その結果、移動距離は19kmとなり、わずか5分で到着可能となる。運賃は合計で55ドル(6050円)。コストはタクシーとほぼ変わらないが、移動にかかる時間が劇的に短くなる。

Lilium社の小型機なら、マンハッタン島からジョン・F・ケネディ国際空港までわずか5分で移動できる

 Lilium社は今回得た資金で、商用サービス開始に向けて機体の開発を進める。そしてそのために世界中から航空宇宙、物理、コンピュータ・サイエンスなどの専門家を集めているという。実際、8月にはAirbusでA380とA320の組み立て責任者を努めていた人物と、Teslaで人材獲得を担当していた人物などが入社しているという。