Microsoftは2017年8月15日、人工知能(AI)による制御機能を搭載したグライダーの飛行試験を実施したと発表した。試験の場はネバダ州ミネラル群のホーソーンの砂漠地帯。研究チームはAIアルゴリズムを実装した機体が完成してから、レドモンドのMicrosoft本社近くの農場で小規模なテストを実施し、広大な砂漠での試験に踏み切った。

飛行試験に使用したグライダーと、研究チーム

 今回の試験に使用したグライダーは、方向舵など機体を制御する機器は備えているが、基本的に動力を使うことなく、気流に乗って飛行する。研究チームはグライダーにAIのアルゴリズムを実行させるためのコンピュータや各種センサー、地上との無線通信に使う機器、コンピュータや無線通信機器の電源となる蓄電池を搭載した。さらに、非常時に備えて駆動力となるモーターも搭載している。高速で墜落に向かっている場合など、非常時は手動による遠隔操作に切り替えて制御することで、安全を確保する。今回の試験飛行では、蓄電池が切れるまでの間、グライダーは気流を検知して、それに乗って飛行を続けることができたという。

試験飛行の様子

 研究チームによると今回飛行させたグライダーはまだ開発中だが、いずれは農場での作物の観察や、インターネット接続が困難な地域で無線によるインターネットサービスを提供する「空飛ぶ基地局」として活躍すると期待している。さらに、太陽光などによる発電設備を搭載すれば、いつまでも飛び回り続けることができるとしている。

 今回飛行させたグライダーは、自然の気流の流れを感知し、適切な気流に乗ることで空を飛び続ける。鳥ならば簡単にできることだが、人間が作った機械でこれを実現することは非常に難しいという。飛行禁止区域や障害物を確実に検知し、気温、風向などの推移を捉えて、次にどの気流に乗るべきかをリアルタイムで決める必要がある。データから予測して、実際の行動に移す必要があるのだ。このAIアルゴリズムは、写真から顔を認識するシステムや、音声を認識して単語を出力するシステムで使っているAIアルゴリズムよりもはるかに複雑なものになるという。

 今回のAIアルゴリズムにはほかにも難しいところがあるという。現在、自動車の自動運転など、AIを利用した先進的な技術の開発が進んでいるが、このような技術の難しいところは、確実に先を予測することが困難な環境で、周辺の状況、人間の感情など、どう動くか分からない要素を見て、最善と考えられる答えを出さなければならないという点にある。しかも、自動運転など人間の命がかかっている場面では、失敗は決して許されない。

 今回飛行したグライダーは、ドローンとは異なり人間が制御せずに、気流に任せて飛ばしているので、どの方向に飛行するかは予測が難しい。その状況で、気温、気圧などの常に変動する環境を見て、最善と考えられる答えを導き出している。自動運転技術などにも応用できるアルゴリズムになっているのだ。研究チームは今回開発したAIアルゴリズムは今後10年間に渡って、現実社会の難問を解決する技術の基盤になるとしている。

 現在、このAIアルゴリズムは人間が操縦するよりもうまく機体を制御して、飛行できる段階に達しているという。