ドローンジャーナル

第2回 中国ドローンビジネスの市場規模と2016年の回顧

中国ドローンビジネスの現状

本コラムでは、現地語の資料も活用して、中国のドローンビジネスを巡る状況を紹介していきます。第一回では中国ドローン企業の世界の中での位置を簡単に紹介しました。今回は中国のドローン市場の規模と、2016年に見られたいくつかのトレンドを取り上げます。

把握が難しい中国ドローン市場の規模

 現在、中国国内のドローン市場の規模はどの程度なのでしょうか?
 ドローンの市場規模といった場合、まずハードウェアの製造にかかわる部分が考えられますが、これに加えてソフトウェア部門、そしてドローンを活用したサービス・ソリューションを含めて考える必要があります。残念ながら現時点で、中国、そして日本にもそれぞれの国内のドローン市場を把握する公式統計が存在しないため、企業の発表をもとにしたシンクタンクによる推計に頼らざるを得ません。中国国内の艾媒諮詢(iiMedia Research)の推計によると、2015年の民用のコンシューマー向けドローンの市場規模は32億元(約512億円、1元=16円換算)、2019年には240億元(約3,840億円)へと拡大するとの予測をしていますが、これらの推計の根拠は明らかになっておらず、信頼性が高いデータが限られているというのが正直なところです。その中で輸出データは比較的信頼でき、2015年のドローンの輸出台数は95.4万台、輸出額は5.48億ドル(約630億円、1ドル=115円換算)というデータが得られます。実際にはこれに中国国内で需要されたドローンの金額を加算したものがハードウェア出荷規模と考えられるため、この630億円という数字がボトムラインとなります。

 ドローン市場を見ていくうえでは、セグメント別の市場規模を把握することも求められていますが、比較的詳細な推計が可能なのは、農業用ドローンの市場規模です。現地メディアの報道によると、2015年時点で、中国国内で利用されていた農業用ドローンの台数は2,324台、耕地面積の0.57%に相当する面積の農薬散布に利用されたとされています。なお、日本国内で農薬散布用に普及しているヤマハのヘリコプター型ドローンRMAX(FAZER)の登録台数は2,500台程度とされており、単純に台数で見ると日本に並ぶ台数の農業用ドローンが中国で飛んでいることになります。ただし、普及率を見ると、日本では2015年時点で105万ヘクタールがドローンによって散布されており、年に数回の散布がされるために単純な比較は難しいのですが、仮に全耕地面積449万ヘクタールで割り算をすると、総面積の23.3%に当たります(農林水産省データ参照)。この意味で、普及率の面では中国はまだまだ大きな可能性を秘めています。今後、中国でどの程度のスピードで農薬散布と生育管理が普及するかを予測するのは難しいところですが、仮に耕地面積の10%がドローンによって散布されることになると仮定し、現状の利用実績をもとに推計すると、必要となるドローンの台数は全国で12万台、単価を約160万円(10万元)とするとハードウェアの市場規模は1920億円となります。なお、上記の推計にはマルチスペクトルカメラを利用した生育管理は含まれていません。

有望視される農業用ドローンとその課題

 こうした市場の拡大の背景には、中国でも生じている農村の過疎化、そして労働力の不足があります。これらの問題に対処するために、一部条件の整った地域では、農業の大規模化や企業化も進められており、比較的規模化した農業経営体(中国語では合作社)がドローン導入の一つの受け皿となっています。中国農業大学農業用ドローン技術研究所の劉副所長によると、現在中国には200社あまりの農業用ドローンメーカーが生まれている一方で、実際の普及にはとくに十分な操縦技術を備えたパイロットが深刻に不足しており、一説には10万人のパイロット需要が満たされていないと指摘します。この背景には、パイロットの技術を持つ特に若い世代は、農村部での業務に従事するよりも同じくドローンパイロットを求める沿海部・大都市部の新興企業を目指すということがあるようです。

 企業もこうしたボトルネックを解消する取り組みを見せています。下記の映像は中国の農業用セグメント市場で先行していると評価され、また日本支社も設立しているXAircraft(極飛)の農薬散布ドローンを紹介したものです。自動航行と専用端末による複数機の同時管理が特徴的で、パイロットの技量に依存しない飛行が可能になっています。具体的には、数センチメートルレベルの精度で位置情報を捕捉できるRTK(リアルタイムキネマティック)技術を活用し、RTK移動局によって多角形での散布面を指定すると、専用アンドロイド端末上でアプリケーション側が自動航路案を提案してくる仕組みです。アプリケーションでは機体のパラメーターを確認できるほか、飛行と散布の詳細を設定でき、また飛行ログ管理システムも提供しています。単なる散布を超えた、より包括的なソリューションを競う時代の幕開けを感じさせるパッケージとなっていることが印象的です。中国農村にこうした新技術が即座に普及するかと言われれば地域にもよりますし、また多くの困難も予想されます。しかし、1990年代に中国を訪れた日本人の多くは当時主流の移動手段であった自転車の群れを見て、「この自転車が自動車に置き換わったらどうなるだろか?」と考えたそうです。先進国ではドローンを使った農薬散布はすでに普及していることを念頭に置くと、中国の農村で自動航行のドローンが劇的に普及するような可能性も視野に入れておく必要があるでしょう。

XAIRCRAFT

 同時に興味深いのは、中国で普及しているチャットアプリ、WeChatのようなアプリケーションを活用し、農薬散布隊と呼ばれる専門の業者と散布を発注側する側の農民や企業をマッチングするサービスも始まっていることです。下記の図に示しているのは、DJIが提供している「DJI農業」というWeChatのパブリックアカウントで、画面右下には「今すぐ予約」、「私の注文」、「散布隊入口」、「散布パイロットになる」という選択肢が表示されています。このプラットフォームで、農薬散布にかかわる需要と供給のマッチングがされており、日本に置き換えれば、LINEで農薬散布を発注する、または散布チームを登録する、といった状況です。

WeChat(微信)における「DJI農業」アカウントの画面

 こうしたネット技術の活用に加えて、政府の補助金も投入されています。農業の省人化を進めるために、中国ではかねてから農業機械への補助金制度が整備されてきたのですが、近年ではこの補助金リストにドローンも含まれるようになっています。以上で紹介したのは農業の事例ですが、中国では近年急速な賃金の上昇を背景として、物流や倉庫業界においても省人化が求められる状況にあり、潜在的にはドローンの導入が望まれている中国国内の市場はまだ他にもあります。

2016年のトレンドとその背景

 次に、2016年に中国ドローン業界で顕在化したいくつかの変化について紹介しておきましょう。

 下記の表は現地のドローン専門メディアが掲載した、2016年の注目すべき変化をまとめたものです。セルフィードローン、大企業の参入に始まり、ドローンへの管理体制の強化や業界標準の策定に向けた動きなどが指摘されています。これらの指摘はどれも興味深いものですが、ここで重要なことは、どのようなメカニズムまたはどういった背景のもとでこうした一連の現象が生じているのか、という点です。

現地メディアが指摘する2016年中国ドローン業界の注目すべき点
セルフィードローン、小型ドローンの普及DJI MAVIC PRO、Zerotech Dobby、Hover Camera等、携帯可能なセルフィードローンが中国国内外で普及
大手企業の参入小米(Xiaomi)、騰訊(Tencent)、京東(JD)といったエレクトロニクス・インターネットの大手企業による参入
航続距離の延長科比特の燃料電池での航続時間273分の実現など、リチウム電池以外での航続距離の長時間化にむけた取り組みの拡大
専門メディアの登場宇辰網に見られるドローンに専門化したメディアの登場
衝突回避機能等のスマート化Intelの技術を搭載したYuneecのドローン、DJIのPhantom4などに見られる障害物回避機能等のスマート機能の搭載
群隊飛行技術への着手Intelの500機の同時飛行管理を代表とする群制御研究の開始
監督管理体制の明確化中国国内でもドローンの管理体制の強化を求める声が強まり、クラウドでの飛行管理プラットフォームU-Cloudが正式に運用開始
各種標準委員会の活発化中国航空総合技術研究所(通称301所)が参画する国際UAS標準化協会(UASA)、国鷹航空科技が理事長を務める中国無人機産業連盟、そして深セン市標準技術研究院が進める技術標準など、多くの標準化の取り組みが並走
パイロット認証システムの普及AOPA、慧飛、体育総局らがそれぞれパイロット認証を発行。AOPAは2016年末までに158のスクールを認定、10,255名にパイロット認証を発行。スクール間の競争により教習費用の下落、女性パイロットの増加が進む
10保険サービスの萌芽コンシューマー向け、産業用向けともにドローンへの保険サービスが徐々に拡充

 筆者の考えでは、第一に指摘できることは競争の激化です。ハードウェアの面で指摘されている小型機体、いわゆるセルフィードローンの普及の背景には、既存主流セグメントでの競争の激化、より具体的にはDJIの一強時代がもたらした変化があります。昨年はZerotechのDobbyに代表されるように、標準機となったDJIのPhantomよりも小型のドローンが多くリリースされました。これはPhantomが圧倒的なシェアを誇るセグメントをいかに回避するかを各社が模索したためです。加えて、数百グラムレベルのドローンでも十分な画像や飛行の安定が実現できた、という技術的な背景も指摘できるでしょう。しかしながらDJI自身がリリースしたMAVIC PROは飛行の安定性に加えて、小型化によってこれまで撮影の際にハードルが大きかった室内での撮影にも向いており、すでに日本でもプロのドローン空撮業者でも導入が進んでいます。この意味で、ハード事業でのDJIの優位性が顕著となった1年とも評価できるでしょう。

 DJIの拡大の一方で、大手IT企業の参入も見られていますが、こうした新規参入者の動向を見る限り、キャッチアップはそう簡単ではありません。参入の面では、中国国内では著名なスマートフォンをはじめとする通信機器メーカー小米(Xiaomi)や、インターネットサービスの大手、騰訊(Tencent)、さらにはEコマースの京東(JD)といった大手企業のドローン市場参入が取りざたされました。しかし、ふたを開けてみると、小米(Xiaomi)がリリースしたコンシューマー向けドローンは、事実上のリコール騒ぎとなり、Dobbyでの成長を見込んでいたZerotechは134名のリストラを発表、さらには億航(Ehang)も70名のリストラが報道されています。こうしたニュースから考えられるのは、市場規模の成長よりも参入企業が多く、とくにコンシューマー向けの市場で競争が激化しているということです。業界関係者によると中国では現在、ベンチャーキャピタルからドローン企業への出資が低調となっていると言われています。なお、こうした変化はグローバルなトレンドの一つでもあり、米国の3DRのハードウェア部門からの撤退や、セルフィードローンを発表していたLilyの頓挫など、他国でも少なくないドローンベンチャーは壁に直面していると言えるでしょう。

2016年秋にリリースされたMAVIC PRO

 中国国内で見られた第二の方向性は、ドローン業界のルール化を目指す動きです。この中にはパイロットへの飛行管理の強化に加えて、業界標準の策定の動きも含まれます。パイロットの飛行管理の面では、2017年に入って以降にも、杭州市の空港付近でMAVICを用いて民間旅客機を至近距離から空撮した動画がSNS上に流れ、すでに撮影者は逮捕されています。中国でも安全に関わるドローンの事故が目立ち始めており、管理監督の強化が進みつつあり、昨年までのように繁華街の目抜き通りでPhantomを飛ばす、といったことが中国でも見られなくなる可能性もありそうです。飛行管理強化の一環として、中央政府の一部門である民用航空局はU-Cloudというクラウドシステムをすでに昨年6月から運用を開始し、パイロットに飛行時のデータの提供を推奨しています。しかし実際にこのクラウドシステムでドローンをリアルタイムで管理するためには機体にSIMカードを搭載する必要があり、依然として末端への普及には時間がかかると思われます。後者の業界標準については、現在、世界的に見てもドローンの国際標準は確定しておらず、中国国内でも中国無人機産業連盟などが業界標準を発表しているものの、各種の標準のなかでいずれが基礎となって中国国内の統一標準が作られるか、依然として不明な状況です。急激な成長と普及を見せているドローン業界のルール作りは多くの国で困難を伴っていますが、中国国内でも制度的な透明性や統一性を求める動きがある一方で、企業、政府各種部門(地方政府を含む)、研究所、業界団体などの様々なアクターが入り乱れる状況で、全体としての方向性が明確になるには時間がかかりそうです。

深セン市内の華強北でPhantom3を路上で実演販売している様子(2016年6月:筆者撮影)

中国ドローン業界の2017年の展望

 では2017年はどのような1年になるでしょうか。前提となるのは業界のメインプレイヤーのDJIを筆頭として、ハードウェアの面での業界標準は高まり続けているという事実です。この意味で、ハードウェアの面では普及が一段と進む一方で、一部企業の淘汰の1年になると指摘する業界関係者もいます。また中国国内でもより専門的な産業用ドローンのセグメントへと徐々に競争のフロンティアが広がっています。ソリューションサービスの面ではとくに農業用でのドローンの普及はすでに有力視されていますし、これに加えて中国国内でも測量セグメントや物流面でのソリューションサービスでも注目株企業が登場し始めています。この他にもドローンを使ったSTEM教育への応用など、中国では興味深い動きも見られており、幅広い観点から中国ドローン業界の動向に注目していく必要がありそうです。ハード面での成熟化と淘汰、産業用を含めた競争の激化、そしてソリューションサービスの拡大、これらのトレンドを踏まえると、2017年は中国国内にとってドローンの本格的な普及の1年となるかもしれません。

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筆者らはこうしたアジアでのドローンソリューションの普及の実態を日本の関係者にも共有してもらうため、来る2017年3月23-25日に開催されるJapan Droneにて、中国に加えて、韓国、台湾からドローンソリューションの関係者を集めたトークセッションを企画しています。ご関心のある方はぜひご来場ください。

参考資料

艾媒資詢(2016)「2016年中国無人機行業研究報告」艾媒網2016年9月8日掲載(http://www.iimedia.cn/44699.html)。

伊藤亜聖

東京大学社会科学研究所・講師
専門は中国経済論。著書に『現代中国の産業集積――「世界の工場」とボトムアップ型経済発展』(名古屋大学出版会、2015年12月)、『東大塾 社会人のための現代中国講義』(高原明生・丸川知雄共編、東京大学出版会、2014年11月)等。
Email: asei@iss.u-tokyo.ac.jp