FINANCE Watch
コラム 瓦版一気読み~最後の日「別れつらい」・・・

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●やっぱり森サンが出ないと・・・
  円安による輸出採算の改善や合理化が支えとなるが、米景気の減速や国内販売の下落が響き、経常増益率は鈍化する―。日経が2001年度(2002年3月期)の主要上場企業の連結業績見通しをまとめた結果である。業種別ではバラツキがあるが、円安メリットの大きい自動車はホンダ(7267)などが増益に転換する一方で、日立製作所(6501)など半導体各社の業績悪化は避けられないとみている。

  先行きの懸念材料は3つ。「設備投資の調整が長引く」「個人消費の腰折れ」「海外経済と負の連鎖」。なかでも、欧米の景気息切れが鮮明になってきているだけに、日米欧の同時景気停滞の懸念は今年の世界経済の大きなリスクになる恐れがあると警告している。

  ◇29日の東京株式市場は今年最大の下げ幅を記録、森総理が発足した昨年4月5日の3分の2以下の水準に下落したが、金融庁・経済産業省は、株式買い上げ機構での活用も視野に、証券取引所に上場し、株式と同様に市場で売買が可能な「上場投資信託(ETF)」を早期に導入する方針を固めた、と毎日が報じている。ETFは、通常の投資信託と同様に多様な株式をパッケージで購入して運用、株式市場に上場して売買されるため、初心者の一般投資家にもになじみやすいというが、果たして株価急落の救世主となるのか?

  ◇東京は「破たん国家の内幕」にメスを入れた独自ネタ。建設業者の経営審査業務を実施している旧建設省(国土建設省)の天下り先の財団法人「建設業情報管理センター」が、業務をたらい回して、別のOB天下り会社の社員に丸投げしていたという、杜撰な実態が明らかになった。ただし、国土建設省と財団法人関係者は「丸投げではない」と反論しているが・・・。

  ◇杜撰な実態と言えば、医療現場も同じこと。国立大医学部付属病院長会議の作業部会が、医療事故防止のための最終報告書まとめた。その要旨を朝日だけが1面トップ、他紙は社会面などで取り上げている。経験が浅い研修医の医療行為を見直したり、訴訟前提でも患者や遺族への開示を拒むべきではない、と大きく前進させた内容で、医療事故防止に抜本的な改革を求めている。

  ◇民事裁判も抜本的改革。平均1年8カ月かかるなど長期化への批判が強い民事裁判の審理機関を半分程度に短縮させることを明記。インターネットによる判例情報の全面的な公開も打ち出した。司法制度改革審議会の民事司法改革案を、読売が報じている。

  ◇産経は、元慰安婦の韓国人女性に対する慰謝料支払いを国に命じた山口地裁下関支部の判決を破棄、広島高裁が国家賠償を認めない逆転判決の記事を報じている。

  きょうの1面トップは6紙とも見事にバラけた。なかでも足で稼いだ独自取材のネタを取り上げた東京の前向きな姿勢は評価したいが、記事は重箱の角を漁っているような内容であることは否めない。タイムリーに緊急経済対策の中身を追う毎日も1面トップで扱うほど、これが決定打と言えるものではない。発表記事の朝日、産経は論外。各紙ともパンチを欠いた記事のオンパレード。やっぱり1面トップは、あの森サンに登場してもらわないと・・・。

  【経済・IT】
  ●腰抜けのIT戦略本部
  政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が、「e-JAPAN重点計画」を決めた(読売など)。目標時期を明示して220もの施策を盛り込むなど、政府のIT戦略への意気込みがことのほか強いことを示したが、計画は電話網とインターネット網の整備を混同しているのと同時に、規制や制度の抜本的見直しが見送られているなどの不透明さもある。これでは「5年以内に日本を世界最先端のIT国家」にできるかどうか大いに疑問が残る。

  ◇自民党税制調査会は、貯金の利子などに限られていた高齢者らの「少額貯金非課税制度」(マル優)の対象を株式配当に拡大することや、少額売買の譲渡益非課税制度の創設を軸にした株式市場活性化に向けた税制改正案を検討する方針(朝日)。財務省はマル優制度そのものを縮小したい意向。調整のためのバトルがくりひろげられるのは間違いない。

  【トピック】
  ●「ポスト森」兜町では・・・
  兜町から見た次期総裁は森派の小泉純一郎会長が一歩リード。首相時代に景気を低迷させた張本人の橋本龍太郎元総理、経済に明るいと見られる麻生太郎・経済財政担当相、平沼赳夫・経済産業相らは期待感が高まっていない。最も評価が低かったのが亀井静香政調会長と池田行彦元外相で「その手腕からは抜本的改革は期待できず、株・円は下落する」と手厳しい評価。みずほ証券と日興ソロモン・スミス・バーニー証券がまとめた最新分析の結果を、産経が取り上げている。

  ◇その産経は1面準トップで「麻生氏待望論強まる」と節操もなく載せているほか、東京は「橋本再登板論も出始めている」との観測記事。毎日は「様子見の姿勢」、朝日は「若手沈黙枯れる人材源」という囲み記事。まるで競馬予想みたいに無責任に書き飛ばすのは勝手だが、これでは紙面はテレビのワイドショー。もっとも、ワイドショーの方がリアルな映像が見られるだけ速報性は優っているが・。

  ◇きのうも一部の紙面で掲載されていたが、日産自動車(7201)の主力工場だった村山工場が閉鎖された。筆者も駆け出し記者で、自動車を担当していたころ、よく取材に行った思い出深い工場だ。きょうは毎日が社会面で「配転、転職、寒い春」最後の日「別れつらい」との見出しで、従業員の声を載せていた。お疲れ様。

  [メディア批評家 増山 広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm

2001/03/30 09:20