FINANCE Watch
睨み合うNTT東日本とNTTコム~Lモード“認可”でグループ内対立が加速

  NTT東日本とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の対立―。東西NTTの新たなインターネット接続サービス「Lモード」が、事実上認可される見通しとなり、持株会社NTT(9432)をはじめグループ中核4社の軋轢(あつれき)の構図が鮮明になってきた。Lモードの認可は、地域通信に限定されている東西NTTの業務領域拡大に道を開き、いずれ長距離・国際通信を担当するNTTコムの脅威となるのは必至。その折も折、最近の世界同時株安を受けて中核4社の間では、55億ドル(約6,000億円)の巨費を投じた、2000年9月のNTTコムによる米ヴェリオ社買収の損得が改めて取り沙汰されており、とりわけ、NTT東日本は「NTTコムの判断ミス」と、批判の声を高めている。両社の対立は持株会社の宮津純一郎社長の後継争いにも影響し、グループの混迷は一段と拍車がかかりそうだ。

  ●「参院選」で切り崩される
  「われわれはNTTではない。NCC(新電電)だ」―。関係者によると、NTTコムの鈴木正誠社長は最近、口癖のようにこう洩らしているという。その背景には、NTTグループの本体はやはり東西NTTであり、NTTコムはNTTドコモ(9437)やNTTデータ(9613)と同じく、所詮“外様”であることの不満が込められている。

  情報通信審議会(総務相の諮問機関)は16日、Lモードについて、県間の長距離通信部分を他の事業者が提供する形に改めることを条件に認可すると答申した。条件の細部は割愛するが、Lモードの料金設定は他の事業者に見かけ上移るものの、東西NTTはユーザーからの料金回収、営業活動を許されており、その業務領域は実質的に拡大されたと言っていい。Lモードそのものが「NTT法」に違反する、という新電電や外資系通信事業者の主張は退けられ、ある新電電の役員は「今夏の参院選が大きかった。自民党・郵政族議員へのNTTの工作は強力で、その圧力を受けて審議会もなし崩しに寄り切られた」と敗北を認める。

  ●Lモードは本来、コムで・・・
  「NTT法」に風穴が空いた以上、東西NTTがLモードと同じく他の事業者との相互接続によって、長距離・国際通信へ本格進出を図るのは時間の問題。それは新電電や外資系通信事業者以上に、NTTコムにとって“悪夢”となる。Lモードは本来、NTTコムが提供主体となれば、法律上まったく問題のないサービスであり、実際、鈴木社長はそれを持株会社に画策した。が、宮津社長は認めなかった。NTTグループは今、将来の完全資本分離につながる可能性のある「電気通信事業法」「NTT法」の改正を阻止するため、全力でロビー活動を展開しているが、NTTコムは必ずしも同調していない。一歩距離を置くところに鈴木社長の“外様意識”が読み取れる。

  「何が外様なものか。持株会社に(資本組み入れ分だけで)1,400億円も増資してもらったくせに・・・」。NTT東日本の幹部は、半ば気色ばんで言い切った。NTTコムは2000年11月、持株会社を引き受け手として第3者割当増資を実施、資本金を2,116億円(増資前720億円)へ引き上げた。増資は、米国の大手インターネット・ソリューション事業者、ベリオ社のTOB(株式公開買付)資金約6,000億円の一部に充てるものだったが、多くの余剰人員を抱えてリストラの前倒しを迫られている東西NTTからみれば、NTTコムこそ優遇されているように映る。しかも、株価は日米市場ともITバブルが弾けて急落しており、「6,000億円も投じた責任は誰にあるのか」(NTT東日本幹部)という批判は小さくない。

  ●高い買い物となったベリオ
  TOBを仕掛けた昨年5月当時、NASDAQ(米店頭株式市場)公開企業だったベリオ社の株価は34~35ドル。これをNTTコムは60ドルで買い付けている。70%ものプレミアムをつけて発行済み株式の95.6%を保有したが、今やNASDAQ総合指数は1900を割り込み、当時の半分近い水準。ある証券アナリストは「結果論ではあるが、数千億円余分な高値買いだった。今後、6,000億円の“のれん代”の償却に見合うだけのネット事業を立ち上げられるかどうかで、買収の適否が決まる」と解説する。

  持株会社の宮津社長は、旧NTT社長時代から数えて6月で就任丸5年、3期目の半ばに当たる。しかし、持株会社方式によるグループ経営に再編されて2年・1期が経過することから、トップ交代を囁く声は根強い。“ポスト宮津”を争うのは、NTT東日本の井上秀一社長とNTTコムの鈴木社長だが、両氏を比べれば、これまでは鈴木氏に有利な展開だった。

  ●浮上する井上社長の“ポスト宮津”
  地域会社は再編当初から赤字体質であるところに、NTTコムは昨年夏、外圧を利用して地域回線接続料の大幅な引き下げを実現させた。さらに決定的だったのは、ADSL(非対称デジタル加入者線)サービスをめぐって、NTT東日本が公正取引委員会から独禁法違反の警告を受けたことであり、この前代未聞の不名誉を考えれば、井上氏の昇格はないという見方が一般的だ。しかし、ここへ来て持株会社はNTT東日本を擁護する行動が目立つ。

  持株会社の関係者はこう語る。「宮津社長は東西NTTからNTTコムへの人員シフトを盛んに働き掛けている。Lモードの認可工作はNTTコムの存在を無視したものであり、今さらべリオ社買収の損得を持ち出すのも“鈴木批判”の為にする議論」。“NTT”とは、持株会社とボトルネック設備をもつ東西NTTだけを指す固有名詞であるとすれば、“外様”の鈴木氏にトップ昇格の芽がなくなった時から、NTTグループの完全資本分離は始まるのかも知れない。

■URL
・NTTコムのベリオ買収が具体化~米政府が承認
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/24/doc226.htm
・NTT引受の第3者増資~NTTコムが2,793億円調達
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/20/doc1102.htm
・揺れるNTTグループ~「コム」の市内参入で
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/29/doc1197.htm

(三上純)
2001/03/21 11:43