FINANCE Watch
コラム 瓦版一気読み~政局激動につき「休刊日特別版」

  情報は時とともに劣化する・・・

  【10日1面トップ】
  ●首相は観念したのか?
  「橋本派幹部が、総理があす辞意表明するとの報道を肯定したが?」「誰?」「橋本派の幹部が」「あした(10日)なんて書くと皆さん恥かくだけじゃない」

  9日午後6時14分、執務室を出て公邸へ向かう森喜朗首相と番記者の間で、こんなやり取りがあった。

  が、回り出した歯車は止まらない。10日朝刊で読売と日経が<きょう辞意表明>、朝日と毎日も「玉虫色」(朝日)の表現ながら<退陣受け入れ>と報道。東京も<今夜にも退陣表明>の見出しを掲げた。

  「・・・となる見通しだ」や「間接的表現で・・・」と、随所で“逃げ”を打っているが、これは森首相が「辞めんぞ!」と居直る可能性などがあるからだ。首相は、本当に観念したのだろうか?

  首相は8日夜の時点で、「あす(9日)辞意表明する」覚悟でいたが、亀井静香政調会長に「あさって(10日)にできないか」と引き止められ、「辞意表明は10日に設定された」。

  読売(3面)はこう報じているが、ひとり産経だけが<今夜会談、退陣迫る><首相は拒否の構え>などの見出しを掲げ、森首相がまだ腹をくくっていないと報じている。10日夜の「密室の協議」で、党5役のうち亀井氏を除く4人が早期退陣を迫るが、首相は辞意を表明せず、「調整は難航する見通し」というのだ。

  この続きは、【11日1面トップ】で。

  ◇株価対策を柱とする与党3党の緊急経済対策が森首相のもとに届けられ、報道各社に発表されたのは9日午後4時半すぎ(10日朝刊は日経のみ1面トップ)。株式市場は既に閉まっていたが、為替は敏感に反応した。

  「(PCの)画面を見ていたら、内容が伝わった瞬間、50銭も下がった(円安に触れた)んですよ。笑ってしまいますよね」

  ガイツー(外国通信社)の女性記者は、鮑を頬張りながら「その瞬間」の模様を面白おかしく語ってみせた。場所は、「創業慶応元年」の寿司屋。こっちは小鰭(こはだ)と蛍烏賊で我慢しているのに、鮑を頬張りながら、である。

  閑話休題。中身の“精査”は、プロの内藤新二氏(『ニュースの見方』)にお任せして、ここでは新聞各紙の「評価」をひとくさり。

  経済対策を社説で取り上げたのは、毎日を除く5紙。肯定的な評価も一部に見られるが、「いつも通りのくせで、ばらまき発想が散見される」(朝日)、「森政権末期のどさくさに紛れて、何でもありの対策をまとめて出してきた」(日経)、「その場しのぎの対応が目立つ」(東京)、「打つ手に窮した苦しい印象は免れない」(読売)といった具合に厳しい論調が目立つ。

  それでも「苦心の跡はうかがえる」(読売)し、景気や株価対策に有効なアイデアもないわけではない。が、この経済対策の最大の“欠陥”は、「だれが引き受け、担うのかがわからない」(朝日)という点。とりまとめの中心人物、亀井政調会長も元気がなく、記者会見では「政府には与党がまとめた経済対策の具体化を期待している」と述べただけ。「強気で鳴らした『亀井節』も湿りがち」(産経)という。

  【11日1面トップ】
  ●党大会は大荒れ?
  森首相と自民党5役の「密室の協議」は10日夜、首相公邸で約50分間にわたって行われた。その結末は?

  「我が党は信頼ある政党に生まれ変わらなければならない」「本年秋予定の総裁選挙を繰り上げ実施する」

  この首相発言について、「辞意表明か?」と質す番記者たちに古賀誠幹事長は「そんなことではない」と否定。首相自身も、口にチャックをしたまま公邸を後にした。が、公明党の神崎武法代表は「事実上の辞意表明」と受け止め、翌11日の各紙朝刊も1面トップでそう報じた。「森サンは辞めると一言も言ってない」と辞意表明を否定する自民党執行部の狙い通りの展開である。

  もはや組織としての体を成さない。骨の髄まで腐りきった自民党がどうなろうと、知ったこっちゃないが、この期に及んでもなお繰り返される茶番劇に怒りがこみ上げる。10日夜の密室、もとい公邸で描かれた「森退陣」のシナリオはお粗末の一語に尽きる。これでドラマ(もちろんコメディ)を制作すれば、間違いなく高視聴率が稼げるが、現実の視聴率(内閣支持率)は短期金利のように限りなくゼロに近づいていくであろう。

  <森首相、来月退陣>と、実にスッキリした見出しを掲げているのは読売と日経。ひとり産経が、<退陣>の2文字の前に<事実上の>と付しているが、ことここに至れば、<事実上の>という正確な表現は何の意味も持たない。

  今回の「森降ろし政局」で浮き彫りにされたのは、朝日が政治部長の解説記事で指摘しているように、「自民党が権力の中心に居座り続けることへの許容度はますます薄くなっている」(朝日)という明々白々な事実である。

  永田町を拠点に取材を続ける政治記者たちは、自民党が骨の髄まで腐りきっており、政界を再編成する以外に政治浄化の道がないことはとっくに見抜いている。が、そのことを書けば、彼らが永田町を叩く材料に使ってきた「政治空白」を自ら創り出すことになりかねない。

  だから、読売の社説(「『空白』を回避すべき政治の責任」)のように新聞までもが奥歯に物が挟まった物言いしかできないわけだが、本音を表に出せない論調は説得力を持たない。

  「ひとつだけどうしても言わねばならぬことがある。新しい首相選びは、すべて経過を公表せよ」

  数多いる政治記者の中で海外でも高い評価を得ている日経新聞の田勢康弘編集委員が、<指導者の劣化が国を滅ぼす>という見出しの記事の中で、「ポスト森」の選出についてこう述べているが、田勢氏ですらこの程度の指摘にとどまる。危機脱出の妙案についても、「未曾有の人材飢饉から抜け出す手立てを真剣に考えよう」と言うだけで、肝心要のどうすれば良いのかということが書かれてないのである。

  ◇新聞は今、何を書くべきか。

  「この国の最高責任者である首相に『事実上の退陣』というあいまいなことが許されるのか。森喜朗首相は辞めるならさっさと辞めるべきだ」(毎日『余録』)。書き出しはこれでいい。

  首相がこの局面で辞意を表明すれば、野党は参院での予算審議を拒否。首脳会談を受け入れた米露両国に対する外交上の儀礼を失することになるかもしれない。が、「政権担当者としての現実的な知恵に裏付けされた」(産経・社説)会談結果で世間の眼を欺けるはずもない。退陣という既成事実を隠して国会審議に臨み、米露の首脳に会いに行く方がよっぽど失礼だろう。

  衆院を通過した2001年度予算案は、野党が審議を拒否しても自然成立する。首脳会談もレームダックでも可能だが、もともと延命工作の一環としてセットされたのだから、ドタキャンした方が相手に迷惑をかけずに済む。

  首相は即座に退陣すべし。「せめて4月まで」としがみつくくらいなら、解散・総選挙に打って出た方がこの国のためになる。政界再編に火をつける可能性があるのだから。

  [メディア批評家 増山 広朗]

  ※本日は新聞休刊日ですが、週末の政局報道を中心に特別版としました。

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm

2001/03/12 09:19