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「日本の政治を読む」~「ポスト森」は野中氏か橋本氏に

  【政局の焦点】
  ●森首相が週内にも退陣表明か
  政局は、先週のこの欄で、実習船事故にもかかわらず、森喜朗首相がゴルフプレーを中止しなかった問題が「致命傷になりかねない」と指摘したが、その後事態が急進展、森首相の退陣は不可避の情勢となった。早ければ今週中にも森首相が2001年度予算案の衆院通過と引き換えに事実上の退陣表明をする可能性がある。後任には自民党の野中広務前幹事長が有力候補に上がっているが、同氏が固辞した場合は、元首相の橋本龍太郎行政改革担当相が起用される見通しが強まっている。

  ●“最有力”小泉氏は橋本派と公明党がノー
  ポスト森候補は、国民的人気の高い小泉純一郎元厚相が“最有力”と見られているが、政局のカギを握る自民党橋本派と公明党がいずれも同氏にノー。小泉氏が郵政民営化やデフレ政策を主張、政策的にコントロールが効かないと危険視されているためで、自公保3党の統一候補として同氏が選ばれることは困難な情勢。代わって3党連立の立て役者で、安定感のある野中氏の擁立を待望する声が高まっている。

  ●森首相を選んだ「5人組」の野中氏に反発も
  しかし、野中氏は既に75歳と高齢で、しかも森首相を実質的に選んだ「5人組」の有力メンバーであることが自民党内の反発を呼ぶことも予想される。またイメージが暗く、一般的な人気もない野中氏を旗印に参院選を戦うことの是非も議論となろう。何よりも肝心の野中氏が首相就任について「200%ない」と固辞している。その場合、本人が再登板に意欲的で、公明党とその支持団体・創価学会も容認しているといわれる橋本氏が浮上してくる可能性が高い。

  ●扇首相説は「笑い話」程度
  このほか、1月末の青木幹雄参院幹事長や古賀誠幹事長、野中氏らと創価学会幹部との会合で話題になり、一部で報道された扇千景保守党党首については、出席者によると「笑い話で出た程度」というのが真相のよう。また高村正彦法相もダークホースのひとりだが、同氏が現在問題となっている外務省元幹部による外交機密費横領事件の際、外相、外務政務次官を務めた経歴がネックとなる。一方、すべての候補に断られた場合、野田聖子副幹事長の大抜てきを取りざたする向きもある。世論調査では人気が高い田中真紀子氏は論外。

  ●今回の特徴は「公明・学会主導政局」
  今回の政局の大きな特徴は、これまで「自ら手を汚すことはしない」としてきた公明党・創価学会が先頭を切って「森降ろし」に走っていること。神崎武法代表の「すぐゴルフプレーを中止すべきだった」(11日)に始まり、冬柴幹事長の「森首相はもう辞めた方がいい」(14日)、再び神崎氏の「不信任案にはじめから反対と決めているわけではない」(16日)、同「今月末から予算案の衆院通過前後がヤマ場」(16日)など、ほぼ連日にわたって森首相を批判、しかもその口調は日増しに激しくなっている。

  この背景には6月の都議選と7月の参院選が同党にとって各種選挙の中で最も重大な意味を持つ選挙ということがある。冬柴氏が18日、「このままでは森首相の道連れになる」と述べたのは、その強い危機感の表れだ。

  ●「自公連立」の是非が参院選の争点に
  さらに言えば、自民党の力が低下し、相対的に公明党・創価学会の政局に与える発言力が上がっていることが挙げられる。以前にも指摘したが、自民、公明両党は既に一体化しつつあり、野中氏が首相候補とされるのもその象徴的存在だからだ。従って、もし参院選を「野中首相」で戦うことになれば、「自公連立」の是非が大きな争点として浮上してこよう。民主党の鳩山由紀夫代表や菅直人幹事長、自由党の小沢一郎党首らはいずれも公明党・学会主導の政局に強く反発しており、参院選は衆院の年内解散もにらみ、各党の命運と政界再編の行方を賭けた熾烈な争いとなることが予想される。

  ●日米、日ロ首脳会談は開催延期も
  ところで、森首相の退陣表明が3月2日ごろと予想される予算案の衆院通過前とすると、同月初旬で調整されている首相訪米と同25日が確定しているイルクーツクでの日ロ首脳会談の開催が危ぶまれる。1989年に退陣表明後、東南アジアを歴訪した竹下登首相の例にならって森首相の「訪米花道論」も考えられなくもないが、ブッシュ米大統領にとって最初の日米首脳会談になるだけに、米側が「辞める人に会ってもしょうがない」と判断することは当然ありうる。

  ●首相退陣で村上逮捕もうやむやか
  一方、これまで政局の大きな焦点だったケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)の政界汚職事件と外務省の機密費横領事件が森首相の退陣に伴い、決着がうやむやにされる可能性が出てきた。KSD事件では、最高検が既に村上正邦前参院議員会長逮捕の方針を固めているとみられるが、首相退陣の動きが予想以上に急ピッチのため、逮捕まで到れるのかどうか検察側にも焦りが出ているようだ。

  また機密費事件も裏付け証拠が乏しく、主犯の松尾元室長は依然逮捕されていない。外務省による再調査も官房長をはじめ当事者が軒並み病気入院したため、あまり進展していないもようだ。森首相の退陣に伴う内閣総辞職によって、河野洋平外相が引責辞任の“チャンス”を逸する可能性が高まっている。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/02/19 09:30