FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~予算成立と引き換えに森首相退陣も

  【今週の主な政治日程】
  ▼31日(水) 第151通常国会召集(6月29日まで)、施政方針演説

  【政局の焦点】
  ●リクルート事件と酷似
  政局は31日の通常国会召集を控え、ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)の政界への資金提供問題や外務省元幹部による機密費横領疑惑が森政権を直撃、予想以上の広がりを見せている。自民党森派首脳は「リクルート事件の時に似てきた」と述べ、現在の状況が1989年6月、予算成立と引き換えに退陣した竹下登元首相の例に酷似していると指摘した。内閣支持率も11.8%(フジテレビ28日発表)とデッドラインの10%すれすれまで急落した。野党側は通常国会冒頭からKSD問題などで首相の責任を徹底追及する構えで、今後さらに政治家の逮捕者や閣僚辞任を招き、これに株価低下が重なった場合などは森内閣が総辞職する可能性が十分ある。

  ●亀井氏への献金の有無が焦点
  KSD問題は、世論の支持を受けた東京地検特捜部が小山孝雄参院議員の逮捕を基に「さらに上を狙う」方針に切り替えたとみられ、今後は他の政治家の逮捕はあるのかに焦点が絞られてきた。小山議員と同様、KSD寄りの国会質問をした自民党の村上正邦前参院議員会長のほか、亀井静香政調会長が「ものつくり大学」に対する補助金増額を旧労働相に要求したことが国会審議で判明、同氏へもKSDから資金提供があったかどうかが重大な関心事となる。党内他派閥には「亀井氏がカネをもらっていないわけがない」「亀井氏は孤立感を深め、相当焦っている」との厳しい見方もある。

  ●中曽根元首相父子や深谷元通産相の名も
  仮に亀井氏がKSD事件に連座、政調会長を辞任するようなことがあると、江藤・亀井派は村上氏の議員会長辞任に続いて大打撃を受けることになり、派閥存続の瀬戸際に立たされる。同派所属議員ではこのほか、中曽根康弘元首相、中曽根弘文元文相父子や落選中の深谷隆司元通産相らの名前も取りざたされており、KSD事件はなぜか同派狙い撃ちの様相を呈している。

  ●「パンドラの箱」を開けた機密費横領事件
  一方、外務省の機密費横領疑惑は、外務省の調査報告書によれば同省元幹部が官房機密費を私的に流用したとされており、首相官邸を巻き込む疑獄事件に発展する可能性を秘めている。いわば開けてはならない「パンドラ」の箱を開けたに等しい。一部で指摘されているように外務省機密費(報賞費)が内閣官房機密費として「上納」されていた事実があれば、明らかに財政法違反となる。

  ●外相の引責辞任発展の可能性
  少なくとも、これだけ巨額の予算支出が長年にわたり、しかも上司の了解もなしに、ノンキャリア職員1人だけで行ってきたとは考えにくい。もしそうだとしたら、そのこと自体が日本外交の根幹にも関わる重大問題となるだろう。警視庁の捜査の結果、今後さらに外務省の他の職員や場合によっては官邸職員にも飛び火するようなことがあれば、河野洋平外相の政治責任は免れないだろう。

  ●訪ロ、訪米失敗で遠のく「ポスト森」
  その河野外相は、先の訪ロに続いて訪米でも大統領と会談できなかっただけでなく、首脳会談の日程設定すらできず、批判が高まっている。もちろん外相だけではなく、外務省の担当者や現地の日本大使館にも責任があることは間違いないが、これだけ何の役にも立たなかった外相訪問の結果をみせつけられると、外相自身の資質にも何らかの問題ありと言わざるを得ない。少なくとも、「ポスト森」の候補として名乗りを上げるには大きなマイナスであることは間違いない。

  ●リンゼー氏は円安を容認
  山崎拓自民党元政調会長が24日、都内のホテルで行った講演で明らかにした先の訪米の際のリンゼー米大統領補佐官との会談内容は、一部では報道されたものの、比較的小さな扱いだったため、同講演のうち経済に関する部分の要旨を改めてご紹介する。

  【リンゼー米大統領補佐官との会談に関する山崎講演要旨】
  1、減速経済下でブッシュ政権はスタートする。リセッションにはならない、スローダウン、マイナス成長にはならないだろうと言っていた。(山崎氏の見方では)ひょっとすると、1~3月、4~6月にリセッション状態が生じるかも知れない。

  1、これまではグリーンスパン(FRB議長)という経済運営の神様みたいな人がいたが、これからは連銀による金融政策だけでは米経済を支えきれない。

  1、再び好景気、(実質経済成長率)3%以上に回復する手立てがあるとすれば、10年間で1兆3,000億ドルの減税を実行する計画を行いたいと明言していた。多分前倒しでやることになるだろう。

  1、(山崎氏の見方として)連銀は近々、FF金利を1%程度下げることになるだろう。公定歩合も同程度下げる。

  1、リンゼーの日本に対する見方は、基本的スタンスとして外圧を使わない。あくまで対話重視。合意の上の関与を強調していた。

  1、リンゼーは(日本の)財政出動型の景気対策に否定的だった。結果を見れば明らかだと。日本には1日も早く財政再建に乗り出してもらわないと。日本の財政破たんは米国の迷惑、ひいては世界の迷惑になるとの持論を述べた。

  1、彼は財政再建の方策としては増税、歳出カット、調整インフレの3つの方法しかないと言った。多分、増税は難しい。調整インフレは歯止めがきかない危険がある。残された道は歳出カットしかない。なぜ不要不急の公共事業にこだわるのか、と。

  1、財政再建の結果、財政支出が減少し、有効需要が減る。GDP伸び率の足も引っ張るし、景気に悪い影響が出てくる。それを防ぐには、多分、輸出の増大になるだろう。つまり米市場に対する輸出ドライブがかかる。それを米国は許容すると言った。それによって経済摩擦が生じて、日米関係がぎすぎすすることにはならないと。

  1、輸出がラッシュしてきたからといって、為替で円安を防ぐ介入はない。円安容認なんだ、と彼は言った。1ドル=120円でも容認するとも言った。120円を超えた円安に危機感を持っているわけではないと。貿易収支の赤字を資本収支で賄うというのが彼の考え方だ。

  1、ただ、鉄鋼、自動車などで摩擦を生じると思う。輸出がどんどん大きくなっていけば、日本は一層の市場開放を迫られる。規制緩和に前向きの対応を迫られることは覚悟してしかるべきだ。

  1、この1年足らずの間に、日本の株式の下落は非常に大きく、このままでは金融機関をはじめ所有株式の評価損で決算が難しくなる。不良債権の処理が難しくなり、第2次金融危機を惹起する可能性があると言った。リンゼーは、それは困ることだと。私は株価下落の原因でとりわけはっきりしているのは、米国の株価下落だと言った。彼は、その点の調整が大きな仕事になるのかなと感想を言った。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/01/29 09:46