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遅いISDNはもう要らない?〜NTTに見直し論浮上

  NTT(9432)グループ内部で、主力商品であるISDN(総合デジタル通信網サービス)の事業見直しが唱えられ始めている。ISDNに比べ最大20倍以上も高速なADSL(非対称デジタル加入者線)サービスが普及の兆しを見せ、しかもそのADSLをめぐって昨年末、NTT東日本が公正取引委員会から独禁法違反の警告を受けたことが見直し論のきっかけとなっている。公益事業体への前代未聞の警告は、ISDNに執着し、競合するADSL事業者を不利にしてきた結果であり、グループの業務系社員の間では「ISDNを開発した技術屋の言いなりになっていたのが間違い」と、内部批判の声も挙っている。ISDNの見直しは、“技術系対業務系”というNTT固有の派閥抗争を一段と先鋭化させそうだ。

  ●公取委警告の恥辱
  「ADSLが普及すれば、光ファイバー網は不要になるかもしれない。いわんや、ISDNはもっと要らない」―。NTT東日本のある幹部は、こう本音を洩らした。東西NTTは昨年末、インターネットへの高速アクセスを実現するADSLサービスに本格参入し、ユーザーが情報を受け取る「下り」が、動画も快適に取り込める最大1.5Mbpsの伝送速度で1回線当たり月額4,600円の「フレッツ・ADSL」をスタートさせた。これに対し、ISDNのインターネット接続サービスである「フレッツ・ISDN」は64Kbpsで同4,500円。来月にも1,000円程度の値下げに踏み切る計画だが、20倍以上も高速なADSLが登場してしまえば、もはやISDNの時代遅れは隠せない。

  それでも、累計1,000万回線の販売実績があるISDNは東西NTTの主力商品。両社は表向き「ユーザーの使用目的に合わせてメニューを揃えた」と“棲み分け”を強調し、ISDN見直しはおくびにも出さない。が、ここに来て本音が洩れ始めた背景には、公取委による独禁法違反の警告がある。NTT始まって以来の“恥辱”のインパクトは大きかった。

  ●データ通信の本命として登場
  「フレッツ・ISDN等のNTT東日本のサービスを企画・営業する営業部の者が、DSL事業者と自社の相互接続推進部の接続交渉の場に同席している」

  「NTT東日本の相互接続推進部が、接続交渉等の場において得たDSL事業者の営業情報を、社内の検討会議等において営業部およびグループ企業に提供している」

  公取委が昨年12月20日に発した警告は、詳細かつ具体的だった。とりわけ、接続交渉に関する指摘は、NTTグループに情報遮断のファイアウォールがまったく無く、グループぐるみでADSLの普及に疑義のある動きをしていたことを明らかにしてしまった。2月の定期異動で、NTT東日本の業務系社員が一定の“処罰”を受けるのは必至といわれ、その業務系社員の不満は外部のADSL事業者より、内部の技術者に向かいつつある。

  「穀潰し(ごくつぶし)」―。口の悪い一部の業務系社員は、ISDNに関わる技術者をこう呼んで憚らない。ISDNは1988年、一般にはインターネットの存在も知られていなかった時代に、NTTがデータ通信の本命として開発した伝送技術だ。しかし、そのサービスは、NTT仕様の市内交換機「D70」に専用の加入者収容装置(ISM)をつなげなければならず、NTTは10年以上にわたって1,000億円単位の設備投資を続けてきたといわれる。

  その後、アナログ電話もISDNも1台で処理可能な「新ノード」と呼ばれる交換機を開発し、2〜3年前から順次導入しているが、「新ノード」も設計通りの効率が上がらず、外国製品の調達を検討しているという噂も聞く。

  ●重ねた(?)判断ミス
  一方、外部のADSL事業者が接続を求めてくると、NTTの技術者は「ISDNと同じメタル回線を使うADSLは、ISDNに干渉する怖れがある」として消極的な態度に終始してきたのは否めない。その間に米国や韓国では、ADSLが高速インターネット接続の主流となり、ISDNは「既に時代遅れ」(DSL大手首脳)となってきた。「技術屋は二重三重の判断ミスを犯した。その上、独禁法違反の恥まで晒した」と、前述のNTT東日本の幹部は憤りを隠さない。

  NTTグループは、旧電電公社時代から技術者を中心とする組織だった。経営の中枢は技術系社員が握り、NEC(6701)や富士通(6702)、沖電気工業(6703)など“旧電電ファミリー”への天下りも技術系社員の特権。それだけに、“風下”に置かれてきた業務系社員の敵がい心は根深い。だが、民営化後15年を経て両者の立場は逆転しつつある。

  ある新電電の役員は「グループで3,000人を超える技術者の予算・人員を支えてきたのは、『NTT法』が定める研究開発の推進・成果普及の責務。ところがNTTは昨年の再々編議論の際、自らその撤廃を求めた。研究開発の特権の根拠規定がなくなり、さらにISDNまで縮小されることになれば、技術系社員はいずれ業務系社員に駆逐されていく」と指摘する。ISDN見直しに象徴される技術系社員の落日―。それが、技術系の総帥である宮津純一郎氏がトップ(持株会社社長)の時に起こるのも、時代の皮肉な巡り合せというほかない。

■URL
・NTT
http://www.ntt.co.jp/
・需要を根こそぎ?〜東西NTT、ADSL本格参入の波紋
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/20/doc1480.htm
・NTTに独禁法違反の疑い、“郵政省離れ”の通信業界
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/31/doc876.htm

(三上純)
2001/01/17 15:09