FlexScan HD2452W

 最近は、格安なフルHD対応液晶モニターも出てきたが、「全てのメディアを最高画質で楽しむ」という用途には、残念ながら、ああいった製品は向かない。もちろん「割り切って使う」のであればそれはそれでいいと思うが…。

 まず、液晶パネルの問題がある。

 格安なフルHD対応液晶モニターは、そのほとんどがTN型を採用しており、視野角が狭めで、画面中央と画面外周とで、同じ色でも色調が微妙に異なって見えてしまうこともある。FlexScan HD2452Wは、もともと動画像表示をすることを前提に設計されたため、液晶パネルは垂直配向(VA)液晶を採用している。VA液晶は視野角が広く(FlexScan HD2452Wの採用パネルでは上下左右178°)、視線角度依存の色調変化がとても少ない。

 さらにFlexScan HD2452Wは、液晶テレビの液晶パネル駆動技術であるオーバードライブ回路を搭載しているため、液晶分子の応答速度が最も遅くなる中間階調でも毎秒60コマ表示の要求性能を満たせている。具体的には黒(0)→白(255)→黒(0)で16ms、階調レベル31-63-95-127-159-191-223での各応答速度の平均値は6msとなっており、最新の液晶テレビと比べても遜色がないレベル。

オーバードライブなし(イメージ)
オーバードライブあり(イメージ)

 輝度も450cd/m2。コントラスト比は1000:1。動的コントラストでは3000:1。これも、液晶テレビと同等のスペックだ。格安フルHD対応液晶モニターでは、もともとPCモニターを想定しているためここまで明るくなくコントラストももっと低い。だから表示映像に臨場感や立体感に乏しくなってしまう。

 もちろんFlexScan HD2452Wが明るすぎるということもない。PCモニターとして使う場合には画調モード(カラーモード)を「テキスト」に設定すれば長時間PC作業に向いたPCモニターライクな画調にできるからだ。


PC入力 AV入力
カラーモード テキスト
ピクチャー
ムービー
sRGB
ゲーム(PC)
カスタム
スタンダード
シネマ
ダイナミック
ゲーム
カスタム
設定できるカラーモード
1920×1200ドットという解像度は、PCで作業をするにもゲームをするにも便利な解像度である

 筆者個人としては、とても重要だと思っているのが解像度。

 最近の格安フルHD液晶モニターは「フルHD」ということで1920×1080ドットパネルを採用しているものがほとんど。対してFlexScan HD2452Wは1920×1200ドットというフルHD+αの解像度を有している。PCモニターとしての用途に妥協しない性能を求めると、この1920×1200ドットという解像度は偉大で、圧倒的に便利なのだ。高解像度PCモニター用解像度として慣れ親しまれた1600×1200(UXGA)ドットというモードがあるが、普段のPC作業でこの解像度に使い慣れてしまっていると、縦解像度の1080ドットが微妙な広さというか狭さで、とても窮屈に感じてしまうのだ。

 FlexScan HD2452Wの1920×1200ドットはWUXGAともいわれるが、これはUXGAをそのままフルHDの水平解像度の1920ドットにワイド(W)化したものであるため、PCモニターとして使ったときに、UXGAの使い勝手を損なわずにワイドに使えるのだ。へりくつに思えるかもしれないが、これは本当。もちろん、Xbox360やPS3、ブルーレイなどのフルHD映像を映したときには「大は小を兼ねる」的に何の問題もなくドットバイドットで美しく表示できる。

 また、この1920×1200ドットは、ハイレゾPCゲーミングの世界ではスタンダードな存在になりつつあり、タイトルによっては1920×1080ドットには未対応で、1920×1200ドットにのみ対応…というのもあるほど。ちなみにPC Watchでもお馴染みなPCベンチマークソフトの「3DMark Vantage」もテストモード「Extreme」(ハイレゾ高負荷モード)は、1920×1080ドットではなく、1920×1200ドットの方にのみ対応している。

 PCでの使用を少しでも気に掛けたいユーザーは1920×1200ドットなのだ。

 高画質化、高性能化する薄型テレビ製品だが、映像エンジンを進化させれば進化させるほどゲーム機との相性が悪くなってしまったことに、まだメーカーの全てが気づいているわけではない。

 映像鑑賞用のテレビ製品は、映像が表示されるまでに内蔵された高画質化回路でノイズを除去したり、シャープネス調整を行ったり…といった映像処理をしてからの表示となるため、表示映像は美しくなるが、その分、映像信号がテレビ側に入力されてから表示されるまで数フレーム分の表示遅延が起こってしまっていることが多いのだ。

 シューティングゲーム、音楽リズムアクションゲーム、格闘ゲームといったリアルタイム・インタラクティヴなゲームでは、映像表示とプレイヤー入力が同時に行われることを想定しているため、ここに遅延があるとゲームにならない。

 わずか数フレームといってバカにすることなかれ!

 「避けているのにやられる」「ちゃんと押したのに操作に付いてこない」といった「遊びづらさ」という結果に確実に表れるのである。

遅延がひどいと、ゲームとして遊びづらくなってしまう

 そもそもゲーム機からの映像は、放送波や圧縮されたディスクコンテンツの映像とは違ってノイズとは無縁な存在。ゲーム機から出力される映像はいわばベースバンド映像なのでその表示に高画質化回路の介入は不要なのだ。

 こうしたバックグラウンドを受けて開発されたFlexScan HD2452Wは、ゲーム機と接続した場合の表示遅延低減に設計段階から真剣に取り組んだ数少ない製品だ。FlexScan HD2452Wには「スルーモード」と呼ばれるモードが搭載されており、このモード時には、内蔵された高画質化エンジンをスルーし、最高速で映像表示を行ってくれるのだ。

 最近の液晶テレビでも「ゲームモード」というゲーム機との接続に適した画調モードを備えた製品もあるが、そういった製品でも、中には、「長時間視聴に配慮した輝度を抑えた画調にしているだけ」の製品もある。ゲームプレイを重視するのであれば、FlexScan HD2452Wのような表示遅延に配慮したこと自体を明言した製品を選びたい。

リモコンの[スルー]ボタンで、簡単にスルーモードのオン/オフが切り替えられる
音楽リズムアクションゲームなど、シビアなタイミングを要求されるゲームでは、表示遅延の少なさは特に重要になる

 そして、もう一つ、表示遅延低減以外にもFlexScan HD2452Wにはゲームファンにとって嬉しい機能が搭載されている。

 それはPSP大画面表示機能。

 ソニーの携帯ゲーム機PSPは、PSP-2000以降でPSPソフトのテレビ出力機能が搭載された。PSPのシステムソフトウェアを5.00以降にバージョンアップすると初代PSソフト(アーカイブスタイトル)については全画面出力が行えるようになったが、PSPソフトをテレビ出力すると依然と黒帯で囲まれた中途半端な画面サイズの表示になってしまう。FlexScan HD2452Wは、この問題にも取り組み、PSPゲームの画面を画面全域に表示する特別なモードを搭載している。

 やり方は画面サイズモードを「ポータブル」モードに変更するだけ。ゲーム起動前のPSPメニュー画面でも、ゲーム起動後のゲーム画面でも自動的にFlexScan HD2452Wで最大表示してくれる賢いシステムになっているのだ。このPSP大画面表示機能は、PSP開発元ソニー製のテレビにも搭載されていないFlexScan HD2452Wだけの機能だ。ゲーム機が繋がるPCモニターや薄型テレビは今や珍しくないが、PSPに完全対応したAVマルチモニターはFlexScan HD2452Wだけだ。

PSPゲームの画面も、アスペクト比を維持した状態でFlexScan HD2452Wに最大表示できる
PSPを外部出力するためには、D端子ケーブルでFlexScan HD2452Wと接続する
リモコンの[サイズ]ボタンで、画面サイズモードを「ポータブル」に変更
PC入力はアナログRGB1系統と、DVI-D端子1系統。AV入力端子は、HDMI端子2系統、コンポジットビデオ入力端子、S2ビデオ入力端子、D4入力端子を装備する

 パーソナルに、それでいて多様な使い方をしたいので、手持ちの映像機器をできるだけ多く繋いでおきたくなるのがAVマルチモニターの宿命。一台で何役も任せたいからこそ重要視されるのが、やはり接続性ということになる。

 この点においてもFlexScan HD2452Wには死角がない。

 PCモニターとして必要十分な活用ができるようにPC入力はアナログRGB(ミニD-sub15ピン端子)1系統と、デジタルRGB専用のDVI-D端子1系統の合計2系統を装備する。AVマルチモニターだからといってAV機器の方ばかりに色気を使っているわけではなく、PCモニターとしてのポテンシャルに妥協はないのだ。

 そしてデジタルAV機器との接続に、いまや欠かせないHDMI端子も2系統を装備する。

 HDMIのバージョンは1.2a相当で、テレビでも最近の製品になってやっと対応がなされた1080/24p規格にもFlexScan HD2452Wは既に対応済み。これも格安フルHD対応液晶モニターには無い機能だ。

 この1080/24pとは、フルHD解像度の映像で毎秒24コマ(24fps)表示とするフォーマットのことで、主に映画やアニメのソフトなどで採用例が多い。従来の映像機器では24fpsを60fpsにフレームレート変換して表示する2-3プルダウン表示が主流だったが、これはスクロールするシーンなどで動きがカクカクしてしまうことがあった。FlexScan HD2452Wでは、1080/24pのネイティブ表示に対応しているので、ぎこちなさがない。PS3とFlexScan HD2452WをHDMI接続してブルーレイの映画やアニメを再生したときにはこの機能が自ずと働く。

1080/24p規格対応で、映像もスムーズな動きで見られる

 最新のデジタル端子だけでなく、アナログビデオ系の端子も充実している。コンポジットビデオ入力端子、S2ビデオ入力端子といったレガシー端子はもちろん、DVDプレイヤーやWiiとの接続では利用頻度が未だ高いD4入力端子も装備している。

 格安フルHD液晶モニターでもHDMI端子を1系統持ったものがあるが、PC入力2系統、HDMI2系統、おまけにアナログビデオ入力も3種類の端子に対応しているものはない。PCにも、ゲームにも、AV機器にも全て本気の対応がなされているのが、FlexScan HD2452Wの美点だ。

 ちなみに、FlexScan HD2452Wを現行ゲーム機専用のモニターとして捉えた場合、この充実した接続端子は効果的に活躍する。今世代のゲーム機のそれぞれを最高画質で接続することを目指すと、PS3、Xbox360 Eliteは2系統のHDMIで接続ができる。Wii、PSPはD端子へ接続できる。PCをDVI-D端子でデジタル接続して、アナログRGB入力を余らせている場合はXbox360をアナログRGB接続するのもいいだろう。コンポジットビデオやSビデオはレーザーディスクやVHSビデオデッキのような旧世代AV機器、プレイステーション以前の旧世代ゲーム機を接続する場合など、いざというときに重宝する。

左側面にヘッドホン端子を装備している

 なお、FlexScan HD2452Wにはスピーカーは搭載されていないが、背面にステレオミニジャック端子、側面にヘッドホン端子は装備している。これらに適当なアンプ内蔵コンパクト・スピーカー、あるいはヘッドホンを接続すれば、HDMI経由で伝送されてきたデジタル音声までも再生可能だ。つまり、PS3やXbox360 EliteをHDMI接続した場合でもちゃんと音が鳴るのだ。

 もちろん、「サウンドはしっかりした自前のオーディオシステムで楽しむ」という、こだわり派のハイエンド・ユーザーも少なくないだろうが、そういうユーザーであっても深夜時などはヘッドホンで楽しむことはあるはず。FlexScan HD2452Wならば、オーディオ機器の電源を入れることなく、手持ちのヘッドホンをFlexScan HD2452Wに接続するだけで表示中の映像のサウンドが聴けてしまう。

 格安フルHD液晶モニター製品は、たとえHDMI接続に対応していても、対応しているのは映像表示だけで、HDMI経由で伝送される音声には対応していないものがほとんど。FlexScan HD2452Wならば接続した機器の映像を映せるだけでなく、その音声も聞くことができる。ここでもやはり、抜かりはないのだ。

専用の小型リモコンで、入力切り替えやアスペクト比切り替えなど、基本的な操作を簡単に行える
「ピクチャー・イン・ピクチャー」機能も、リモコン上からさまざまなカスタマイズができる

 格安なフルHD対応液晶モニターと一線を画しているFlexScan HD2452Wならではの機能として触れないわけに行かないのが「使いやすさ」の部分。

 安価製品では最も軽視されてしまう部分なのだが、ほぼ毎日使うような映像機器だからこそ、使いやすくなければならない。たくさんの機器を接続することになるFlexScan HD2452Wでは、どうしても入力切換やアスペクト比切り換えといった操作が多くなることだろう。多くの同系の安価製品では、これを行うのに、いちいちメニュー画面を出して、少ないモニター側のボタンを駆使して操作しなければならない。
 ところが、FlexScan HD2452Wでは、専用の小型リモコンを付属させており、入力切換はメニューを潜って操作することなく、映像カテゴリで分けられた[PC][VIDEO][HDMI]をそれぞれ押すことでボタン一発で換えられるようになっている。アスペクト比も、リモコン上の[画面サイズ]ボタンで一発で切り替え可能。これはモニター製品の範疇を遙かに超えた使いやすさだ。

 また、液晶テレビではお馴染みだが、モニター製品では珍しい「ピクチャー・イン・ピクチャー」機能(PinP:親子画面機能)を搭載しているのもFlexScan HD2452Wの特徴だ。

 リモコン上の[PinP]ボタンを押すことで、メイン画面の一部がくりぬかれる形で子画面が表示され、この状態で入力切り換えを行えばその希望の入力を子画面に表示できるのだ。リモコン上には、子画面位置を変更する[表示位置]ボタン、ビデオ画面側を全画面表示する[全画面]ボタン、出力音声を切り換える[音声選択]ボタン、子画面表示の透明度を変更する[半透明]ボタンがあり、PinP機能を好みや使用状況に合わせて自在にカスタマイズができるのが嬉しい。

 例えば、ゲーム画面を子画面表示しておき、対戦ロビーに対戦者が現れるまで、PCのメイン画面でインターネットを楽しみ、対戦相手が来たらリモコンの[全画面]ボタンでゲーム画面側の方をメイン表示に切り換える…といった活用は現実的に可能だ。

 その他、PCユーザーにとって嬉しく、それでいてとても便利だと感じるのがFlexScan HD2452WのUSB関連機能だ。

 FlexScan HD2452WはUSBアップストリーム端子も2系統持っていて、これはDVI-D端子、ミニD-Sub15ピン端子の2系統あるPC入力のそれぞれの映像表示と関連付けられている。つまり、DVI-D端子で接続したPCからのUSB接続と、ミニD-Sub15ピン端子で接続したPCからのUSB接続を別系統として取り扱えるのである。
 FlexScan HD2452W側面にはUSBダウンストリーム端子が2系統あるので、つまり、ここにキーボードとマウスなどを接続すれば、1セットのキーボードマウスを2台のPCで使い分けるような、「PC切り換え機」的な活用も実現できるのだ。

 さらに、USBオーディオ機能も搭載しており、接続したその2台のPCそれぞれからUSBオーディオ・デバイスとして利用できる。実際の音声出力はもちろん前述の背面ステレオミニジャック端子、側面ヘッドホン端子から行う形態となるが、通常は2台のPCで音を鳴らすときに2台のスピーカーが必要になるところを、FlexScan HD2452Wを使ったPC接続であればこれが1セットで済んでしまうという利便性が生まれるのだ。

 FlexScan HD2452Wは、格安フルHD対応液晶モニターと比較すると高価に思えるが、AVマルチモニターに求められる全ての機能を高品位にまとめ上げた完成形となっており、値段相応の画質と性能、そして満足感がそこには確かにある。

 同種製品は増えつつあるが、PCモニターとして、ゲームモニターとして、パーソナルサイズの映像鑑賞用モニターとして、「画質」「PCモニターとしての本質」「接続性」「操作性」の全てに妥協していないホンモノの製品は未だFlexScan HD2452Wだけ。

 これが元祖であり源流。とりあえず迷ったらFlexScan HD2452Wを選んでおけば失敗はないはず。

 価格も今や12万円を割った。今が買い時だ!

今回紹介したモニター

FlexScan HD2452W

あらゆる楽しみとつながる、HDMIをはじめとした豊富な入出力端子を搭載。AV入力対応のデスクトップ・ハイビジョンモニター。

販売価格:¥119,800(税込)

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。

関連リンク
■FlexScan HD2452W
http://direct.eizo.co.jp/shop/c/cHD2452W/
■カラー液晶モニター FlexScan
http://direct.eizo.co.jp/shop/c/cFS/
■EIZOダイレクト
http://direct.eizo.co.jp/
■株式会社ナナオ
http://www.eizo.co.jp/
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■ゲームに最適なFlexScan HD2452W (Impress Watch 記事転載)
http://www.eizo.co.jp/products/lcd/hd2452w_game/
■ナナオ、ゲームを重視した24.1型フルHDディスプレイ「EIZO FlexScan HD2452W」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080521/nanao.htm
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