鈴木淳也のPay Attention

第39回

店でのクレカ決済、カード取り扱いに統一性ないの気になりません?

支払い方法にもう少し自由度がほしい

以前に「2020年3月を期限としたクレジットカード処理のIC対応義務化」の話題に触れたが、それから5カ月ほどが経過し、いま期限は目前に迫ろうとしている。

筆者は普段、東京の赤坂周辺で作業しており、「某コンビニ大手チェーンでいまだ周辺店舗の多くがIC対応していないが大丈夫か?」という場面に遭遇したりもするが、めざとい方であれば「ここ最近、お店のPOSや決済端末が変化した」「ICカード取り扱い方法が掲示されるようになった」「カード処理の手順が変わった」といった変化に気付いたかもしれない。

いずれにせよ、IC対応率が低いがゆえに間隙を縫う形でカード犯罪が横行していたといわれる日本で、ようやく諸外国並みの決済環境が整いつつある。

クレカ処理はお店によって全部ばらばら

ただし気になる場面も増えてきた。クレジットカードを処理するオペレーションがまったく統一されていないのだ。

IC付きクレカの特徴の1つに「PIN入力が必要なため、カード処理は基本的に利用者の手元で行なう必要がある」というのがあるが、これはつまり「クレカ決済のためにカードを店員に渡して、先方に処理してもらう必要がない」ということでもある。お店のレジのレイアウトの都合上、CCTと呼ばれる決済処理端末がレジの奥の方にあるケースがあり、その場合には店員にカードを渡して、奥でカード処理をしてきてもらうことになる。店員を信用していないわけではないが、カードをいちど手渡す手前、スキミングや番号読み取りなどのリスクはあるわけで、不安といえば不安だ。

また原稿執筆時点では店が「磁気カード処理のみ」なのか「ICにも対応しているのか」判別できないケースがあり、クレカ決済をお願いした際に、店員がカードを受け取ってから初めてどのように処理されるのか分かることも少なくない。このほか、手前にICカード処理用のPINパッドや決済端末があり「IC対応なんだな」と思って自分でカードを差し込もうとしたところ(余談だが、IC未対応にもかかわらずPINパッドが提供されているケースが以前はあり、主に銀聯カードの処理に利用されていたりする)、問答無用で店員がカードを奪ってこちらに主導権を握らせないといった場面にも遭遇する。

先方としては親切のつもりなのかもしれないが、こちらとしてはカードに直接触れられたくないという気持ちもあり複雑だ。

機器の構造にも問題があり、例えばローソンが導入しているパナソニックの「JT-R600CR」であったり、セブン-イレブンのPOS一体型カード処理端末であれば、カード挿入口が利用者側にあるため、好きなタイミングでカードを出して利用者自ら決済を行なえるが、東芝テックのCT-5100(CCT)に取り付けるタイプの「PADCT-5100」のようなPINパッド+カードリーダの場合、カード挿入口がPINパッドの背面にあるため、オペレーション上はIC付きカードであってもいったん店員に渡し、店員がカードを挿入してから利用者がPINを入力する流れになる。

東芝テックのCCT「CT-5100」とPINパッド「PADCT-5100」。ICカード挿入口がPINパッド背面にあるため、ユーザーに主導権がない

IC対応以降にこうしたオペレーションが大きく変化したのがイオンだ。同社ではスーパーとモール内のテナントで順次「IC対応」と「クレカの非接触決済(Contactless:CL)対応」を進めている段階だが、IC対応が完了した店舗から、従来まで「ポイント付与とクレカ決済に使うカードはすべて店員に渡す」という処理が「ポイント処理もクレカ決済もすべて利用者自身が手元にある決済端末で行なう」という方式に変わっている。

こうした変更は混乱を伴うため、ある意味で英断だと思う。

だが一方で、最近IC対応した地元津田沼のイオンモールのテナントレストランで食事をして非接触クレカでタッチ決済しようとしたところ、別途サインを要求される不思議な対応に遭遇した。非接触決済がPINレスやサインレスで通る金額は上限がだいたい1万円といわれており、レストランでの食事と同程度の金額の買い物を1階のイオンスーパーで非接触決済したところ、こちらは特に何も要求されなかったので、まだまだ処理が統一されていないという現象には遭遇しそうだ。

海外で一般的な「3面待ち」

「3面待ち」というのは麻雀用語ではなく、決済の世界における「磁気カード(MS)」「ICカード(IC)」「非接触(CL)」の3つのカード処理が可能な決済端末の待機状態を指す。

MSが非対応またはPOS側で処理するため、ICまたはCLのみの「2面待ち」というケースもあるが、ここで重要なのは「カード決済を行なう端末が利用者側に設置されており、複数ある支払い手段を利用者自らが選択して選べる」という点だ。

日本国内で一番“3面待ち”が分かりやすい形で実装されていると思われるのがマクドナルドで、店員に「クレジットカードで支払います」と伝えると、決済端末が光り出して「MS」「IC」「CL」のいずれでも支払える。

最近イオンに実装された「MS」「IC」「CL」の3面待ち決済ターミナルの例

この3面待ちは海外では比較的一般的で、スーパーマーケットであれ、小さな商店であれ、あるいは移動式スタンドでの簡易決済端末であれ、クレジットカードやデビットカード支払いであれば、MS、IC、CLのいずれかの手段を利用者自らが選んで、それを店員に伝えることなく処理可能だ。

スーパーであればポイントカードなどもあるため、そういった中間処理が発生するが、それも含めてすべて決済端末が順番に処理できる仕組みになっており、ユーザー自らがそれを行なわなければいけない。米国にWalgreensというドラッグストアがあるが、Apple Payを利用している場合は決済端末への1回目のタッチでBalance Rewardsというポイントカード処理が自動的に行なわれ(登録してある場合)、2回目のタッチで選択済みのカード決済される。店員は商品スキャンと袋詰めの作業に特化しており、現金を扱うとき以外はカードに一切タッチしないというわけだ。

Walgreensの決済端末。カード決済の場合、店員は決済部分に一切タッチしない

店員に「クレカで支払います」というだけでいいのが3面待ちのメリットだが、日本ではなかなか浸透していないのが現状だ。例えば先日、ドトール系列のカフェで非接触決済を行おうとして「クレカで」と店員に伝えたところ、その状態で利用可能だったのは「ICカード」のほうで、非接触を使う場合はその旨を店員に伝えてICとCLの切り替えを行なう必要があるとのことだった。

こうした方式の店舗は少なからずあり、例えばInfox経由でCCTを導入した店舗などでは「NFC Pay」という専用のメニューがあり、支払い方式をわざわざ選ぶ必要がある。筆者の行動圏だと、赤坂のほっかほっか亭などはこのタイプだ。

最近ドトール系に導入されているPax Technologyの決済端末。POS側で事前にICかCLを選択する必要がある

非接触の勧め

昨今、日本でも外出自粛令が強化され、人々の行動が狭められつつある。理由の1つは人同士の接触時間を避け、新型コロナウイルスの早期での拡散を防ぐのが目的となる。

同時に、なるべく“(人の)モノ”に触らないというのも重要だ。新型コロナウイルスは空気中での生存時間が長く、モノへの接触を介して人から人へ伝染する可能性がある。現金が危険という認識もそうだが、それ以外にも書類や荷物など、罹患者の可能性がある人物が触れたモノにウイルスが長時間生存している可能性を考慮し、米国などではモノの取り扱いに対し一定の放置期間が設定されるケースが増えている。

これはクレカも同様であり、客と店員、いずれの可能性を考えても、可能であれば接触を避けるのがベターかもしれない。

その意味で、店舗において統一されていないオペレーションというのも、接触という観点からいえば問題だ。できれば非接触、それがダメなら利用者自らが操作するICカードという風に、カードの受け渡しがない選択肢が用意されていることが望ましい。その点で、3面待ちというのは利用者を混乱させず、安全に取り引きするための良策なのではないかと考える。

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)