西田宗千佳のイマトミライ

第81回

シャープも参入。2020年、日本で飛躍したChromebook

シャープ「Dynabook Chromebook C1」

12月11日にシャープは、傘下のDynabookと共同開発したChromebook、「Dynabook Chromebook C1」を発表した。

シャープがLTE内蔵Chromebook。Dynabookと共同開発

その詳細な流れについては、PC Watchで大河原克行氏がレポートしているが、今年のPC関連ニュースを見ていると、Chromebook絡みの発表が多いのがわかる。シャープのDynabookだけでなく、HPも12月8日にハイエンドなChromebookを発表している。

HP「Chromebook x360 13c」

今年、日本のChromebookになにが起きたかをまとめてみよう。

シャープ、事実上10年ぶりのパソコン事業再参入。GIGAスクール向けChromebookを発売

日本HP、Comet Lake搭載の13.5型2in1タイプのChromebook

Chromebookとはなにかをおさらい

もうご存知の方も多いとは思うが、Chromebookについておさらいしておきたい。

ChromebookはGoogleが提唱するプラットフォームで、ブラウザーである「Chrome」の上でウェブアプリを活用することを基本としている。GmailなどのGoogleアカウントを使うアプリを使う前提で、管理などが簡単なのが特徴。現在はAndroidアプリを動かすための互換レイヤーを持ち、実質的に「Androidタブレット」や「キーボード付きAndroidデバイス」としても使えるようになってきている。

今年の初め、Googleがアメリカで発売した「Pixelbook Go」のレビューを掲載しているので、それも参考にしていただければと思う。

Google「Pixelbook Go」の本格ノートPCに迫る実力と絶妙な物足りなさ

筆者はChomebookを2台ほど持っている。テスト用で日常的に使っているわけではないが、数カ月に一度、アップデートを兼ねて動かしてはいる。1年前のレビューの時に比べて「印象が一変した」ということはないのだが、動作や使い勝手は地道に改善していると感じる。

「GIGAスクール構想」で採用急増

今年Chromebookのニュースが多いのは、日本の特殊事情も影響している。文部科学省が進めている「GIGAスクール構想」の中で、低価格なコンピュータデバイスのニーズが増え、その中でChromebookが選ばれる比率が上がってきているからだ。

調査会社MM総研の調べでは、2019年末には24万5,000台に過ぎなかったが、2022年末には616万6,000台に拡大すると予測している。

Chromebook、GIGAスクール構想で稼働台数が急増

筆者も教育関連のソフトを開発している企業の関係者から、「2021年には、Windows・iPad・Chromebookの比率が1:1:1になる」という予測を聞いている。それとも符合する。

ではなぜChromebookが増えているのか?

ポイントは「価格」と「管理の容易さ」だ。

GIGAスクール構想では、一人あたり1台45,000円までが補助される。自治体から別途さらに追加予算が出る場合もあるが、多くの場合、「45,000円」がマジックナンバーとなっている。冒頭で述べたDynabookブランドのChromebookも45,000円での販売が予定されている。

この価格帯で動く機器での快適さ、という意味では、Chromebookはなかなかいい位置にいる。Windowsはもう一声性能が欲しい感じ。個人的には、単純な快適さやアプリの量ならiPadが有利だと思うが、キーボードなどを含めると価格面で厳しさもある。

GoogleはGIGAスクール構想での導入を狙い「Google GIGA School Package」というサービスを提供しており、ハードウエア各社が提供するChromebookと合わせ、4.5万円以内で「管理を含めた学校向けパッケージ」になるようにしている。こうしたパッケージを活用した製品をハードメーカー各社が、教育ソリューションを提供する企業と組んで出荷していくことで、「コストパフォーマンスが良いワンストップソリューション」として導入できるようになってきた。

特に、教育現場でキーボードを必須とする場合、Chromebookのパッケージは悪くない。教育現場で指定されたサービスを使う・ウェブを活用する、という前提ならば、他のプラットフォームに対してマイナス面は少ない。だからこそ、WindowsやiPadに比べ「不利な条件が見えづらくなっている」ために導入されている部分はあるだろう。

むしろ、先生側が利用状況・動作状況を管理しやすく、トラブルがあった時のリセット・再セットアップやOSのアップデートなどが非常にシンプルであることは、Chromebookならではの強みであり、教育現場に向いた要素と言える。

これはアメリカでChromebookがシェアを伸ばした理由そのものであり、結局日本でも、同じ要因が重視されていることだろう。

メイン機種には向かないが「サブ」として注目

前出のレビューでも述べているが、「完全なPCの代替」だと思うと、Chromebookにはできないことも多く、気になる点が多い。

個人が普通に使うなら、アプリの不足やウェブアプリの制約が気になる部分も多いのも事実だ。

シャープ「Dynabook Chromebook C1」

特にコロナ禍で、続々登場する新サービスが「PCやMacを前提としている」点には留意する必要がある。しかし、それはあくまで「今のPCの用途」での話。教育など、程度決まった使い方をする場合、マイナスとは言い難い。

そういう意味で言うと、「ハイエンドで高性能なChromebook」の存在意義については、正直まだ疑問がある。だが、「低価格なタブレット的製品」としては、個人向けにも魅力が高まっているのではないか、と思う。例えば「IdeaPad Duet Chromebook」は、現在一部店頭で3万円台で売られている。しかもキーボード付きだ。ウェブを中心に使うタブレットだと思えば、iPadやAndroidタブレットよりお買い得だ。私もテストで使ってみたことがあるが、なかなかいいバランスの製品だと思った。

レノボ「IdeaPad Duet Chromebook」

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未だコンシューマ向けにメインで、とは言いづらいが、家族向けのサブ端末としてはいい選択肢になってきた。そういった意味でも、来年以降、我々が目にする機会ももっと増えそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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