西田宗千佳のイマトミライ

第45回

PS5とXbox Series Xにみる次世代ゲーム体験。“性能”競争の次

3月19日深夜(日本時間)、PlayStation 5(PS5)とXbox Series Xの詳細が発表された。正確には、PS5については技術的な詳細をリード・システムアーキテクトであるマーク・サーニー氏が解説し、マイクロソフトはXbox Series Xのスペック紹介などを16日にブログで行なったのち、18日・19日に「Game Stack Live」というオンラインイベントで、Xbox Series Xとクラウドゲーミング「Project xCloud」を解説した。

どちらも本来は、同じ週に米・サンフランシスコで開催予定だったゲーム開発者会議「GDC 2020」でのセッションとして行なわれる予定だったが、GDCが新型コロナウイルスの影響で中止になったため、オンラインでの映像配信に切り換えられた。今年は筆者もGDCへの取材を予定していたので、ちょっと不思議な気持ちで配信を見ていた。

開発者向けの発表がメインなので、価格や発売時期、ゲームタイトルなどの発表はほとんどない。それは年末を予定している発売までの間に、別途行なわれることになるだろう。

技術的な詳細の説明はすでに記事を書いているので、そちらをご覧いただきたい。

PlayStation 5の技術を徹底解説! 「SSD」と「サウンド」でゲーム体験を変える

PS5はSSDの採用による高速化をアピール
Xbox Series X

ここでは、両者やPCを含めたゲーム業界を俯瞰し、新型ゲーム機がどのような影響を与えるのか、そして、各社のポリシーの違いを考察してみたい。

性能で一喜一憂することには意味がない?!

新型ゲーム機が出る、ということになると、「じゃあどこのゲーム機の一番性能がいいの?」という話が話題になる。技術に興味があるゲームファンならば、その辺の議論だけでずいぶん盛り上がれるのではないか。

では、PS5とXbox Series X、どちらの性能がいいのだろうか?

答えは「わからないし評価軸によって変わるし、そもそもそこを厳密に問う意味があまりない」というものになる。

答えになってない?

実際、そうなのだ。

GPUなどのスペックでいえば、軍配は明確にXbox Series Xに上がる。だが、SSDの読み込み速度やそのボトルネックを解消する技術では、PS5の方が上である。「ある解像度でのグラフィック描画の品質」ではXbox Series Xが勝る可能性が高いし、ゲームを始めるまでの快適さではPS5が勝る可能性が高い。

さて、「ゲーム機として優れている」といえるのだろうか?

そもそも、ゲーム機の性能は「常に最高の形で発揮される」わけではない。同じタイトルで比較できるならまだしも、特定のゲーム機にしかないゲームでは比較するものもない。さらに現在は、「PC」という存在が価値を難しくする。単に性能を追い求めるのであれば、その時手に入る最高のパーツを組み合わせたゲーミングPCを用意するのが近道だ。

PS5のCPU・GPUの動作最大クロック

このような事情はもちろん、どのゲームプラットフォーマーも分かっている。だからこそ、各社それぞれに「ポリシー」を定め、独自のハードウェアを作っている。

任天堂のように「形」「操作体系」に特徴を持たせるところもあるが、SIEやマイクロソフトは、どちらかといえば典型的な「ゲーム」を求める。その中で、消費者や開発者はどのような方向性のゲームプラットフォームを求めているのか……という発想でビジネスを行なっている。

PS5における「読み込み速度重視」も、Xbox Series Xにおける「ハイスペック指向」も、そのポリシーの一部が現れたもの、といって差し支えない。

PS5の狙いは「ゲーム体験を変える」こと

では、両社のポリシーとはなんなのか?

以下はあくまで、現状での筆者の予測である。だが、方向性としてそこまで間違ってはいないのではないか、と思っている。

SIEがPS5で目指すのは「これまでのゲーム機やPCと違うゲーム体験を生み出すにはどうしたらいいのか」という点だ。読み込み速度を劇的に(PS4世代に比べて100倍速い、とSIEは主張している)高速化することは、ゲームの姿を変える可能性が高い。

PS5では、SSDの力を最大限に活用し「PS4の100倍のロード速度」を目指す

すぐに思いつくのは、ゲームを始めるまでの時間が短くなること。数分から数十秒かかっていたものが数秒になり、時には一瞬になる。確かに快適になるだろう。

だがそれよりも重視しているのは、「読み込みが長くなるから選択できなかったゲーム」を作れるようになる、ということだ。

必要なデータをこまめに読み込んでも遅くならないということは、「いっきにメモリー内にデータを読み込む」必然性を薄いものにする。「大容量のメインメモリーがあって、ソフトやデータはその範囲で動かさないと遅くなる」というのがコンピュータの常識だが、劇的に読み込みが速ければ、必要なぶんだけデータを入れ替えていく形でも問題なくなる。

メモリーでは入りきれないような巨大なマップを自然に扱ったり、巨大な物体のテクスチャーを自然に切り換えていったり、状況に応じて周囲で鳴っている音が細かく変化していったり、ということも、比較的容易に実現できる。「読み込み」が産んでいた制約をある程度取り払い、ゼロベースで「新しいゲーム体験」を作ることができる。

ゲーム内のマップにある「不自然な小道」や「エレベーター」は、実は読み込み対策のために存在

もちろん、そこにはリスクもある。

まず、そうした「新しさ」はPS5にある程度特化した開発を行なわないと実現できない。今のゲームは、ビジネス価値の最大化とリスクの低減を狙い、PCや他のゲーム機を含めた「マルチプラットフォーム」とするのが基本だ。マルチプラットフォームでは一機種に特化した開発が難しくなる。そうすると、「PS5の特徴を活かしたゲーム」がどれだけ出てくるのか、という疑問が浮かぶ。

二つ目は、「開発アプローチが大きく変わる」ことだ。今までと違う方法論でゲームを作るということは、「どう作ると面白くなるのか」「どう作ると手間が増えず、品質が上がるのか」というノウハウを再構築しないといけない、ということでもある。開発後に、ソフトの品質保証(いわゆるバグチェック)をする時も、アプローチの違いはリスクだ。

PS4ではメインメモリーにまず大きなデータを読み込んでしまっていたが、PS5では逐次読み込み。そうすると、メモリーが16GBしかなくても、より有効に活用できる

とはいえ、こうしたことは、SIEが「開発環境を整え、デベロッパーを支援する」ことで解決が可能だ。いままでのゲーム機と違う発想をどう活かすべきか、逆に「他機種やPCへと効率的にマルチ展開をする場合にはどうすべきか」といった、コンサルテーションに近いことも必要になるだろう。

逆にいえば、SIEにとって、これからの主軸はPS5だ。PS4はもちろん併存するが、PS5がスムーズに立ち上がった後には、低価格を求める市場などのために「残す」存在になる。世代交代によってビジネス自体を新陳代謝させていく、古典的な「家庭用ゲーム機ビジネス」である、といってもいい。

ハード以上に「プラットフォーム」にこだわるマイクロソフト

それに対し、マイクロソフトは少し違う。

Xbox Series Xは重要な次世代機だが、「Xboxというビジネス全体をXbox Series Xにシフトする」という考え方ではなさそうだ。

いわば、Xbox Series Xは「その時にもっともいいXbox」に過ぎない。Xbox Oneも、Windows上で提供される「Xboxサービス」も、すべてが一体になっての存在である。

おそらくだが、Xbox Series Xはそれなりに高価だろう。PS5よりも高い可能性も十分にある。一方で、どんどん「Xbox Series X専用のゲームを出す」というより、Xbox OneやPCを含めた「Xboxというプラットフォームへとゲームの供給量を増やす」という考えであるようだ。Xbox Series Xは、ある意味で「マイクロソフトにとってのXboxビジネスの象徴」ではあるものの、Xbox Series Xそのものが圧倒的に売れなければ負ける、という発想はしていないのではないか。

マイクロソフトにとって、Xboxは重要なビジネスだ。だが同時に、Windowsで動作する「ゲーミングPC」も重要だ。コストパフォーマンスやプレイ層に違いはあっても、両者を隔てずにビジネスをした方が、マイクロソフトにとっては有利になる。

また、「Project xCloud」も、Xbox OneやXbox Series Xと互換性を持つ。クラウドゲーミングについては、まだ環境が整わない部分があるものの、数年後には「気軽に濃いゲームを楽しむ手段」に成長している可能性は高い。Project xCloudには、スマホやPCなど、プレイするデバイスにあわせてUIや操作性を最適化する仕組みが盛り込まれる。そうなると、スマホや仕事に使っているビジネス用のPCでも、最先端のゲームが楽しめるようになる可能性が高い。

Project xCloudで使うブレードサーバー

マイクロソフトは「プラットフォームとしての一体的な価値訴求」に活かす計画に思える。これが成功すれば、「高性能なゲーム機だけを売る」ことにこだわる必然性は薄れる。

一方、同じ事はSIEの「PlayStation Now」やGoogleの「Stadia」、NVIDIAの「GeForce NOW」でも訴求されており、マイクロソフトだけの発想とはいえない。また、クラウドゲーミングそのものの普及やビジネスモデルとしての「正解」もまだ見通しが不確かだ。

この辺の答え合わせと妥当性の検討は、価格や発売時期、タイトルを含めた「ビジネスの全容」が見えてからにしておこう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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