西田宗千佳のイマトミライ

第37回

楽天モバイル、4月に正式サービス開始。本当に期待したいこと

楽天モバイルは、昨年10月から展開している「無料サポータープログラム」の二次募集開始を1月23日に発表した。人数は最大2万人と、以前の5,000人より大幅に拡大された。だが、募集開始から1日を待たず、同日深夜には予定数をオーバーし、募集終了が公表された。

楽天モバイル、無料サポータープログラムの二次募集、「Rakuten Mini」先行販売

楽天モバイル、「無料サポータープログラム」の2次募集を終了

また、楽天モバイルの山田善久社長は、「4月には正式サービスを開始したい」と発表。小型スマートフォン「Rakuten Mini」も23日より先行販売を開始した。Rakuten Miniの簡単なレビューとあわせ、楽天モバイルの状況をまとめてみよう。

楽天モバイルの正式サービスは4月と発表

楽天モバイル山田社長「本格サービス4月開始」正式に案内

「無料サポータープログラム」という名の試験サービス

楽天モバイルはもともと、2019年の秋にはMNO(携帯キャリア)の本サービスを開始する予定だった。だが、基地局設置の遅れもあり、2019年10月のサービスは、「無料サポータープログラム」というテストプログラムに変更された。このこと自体を責めるべきではないと思う。少なくとも、不完全な段階で無理矢理本格サービスとして提供し、顧客に迷惑をかけるよりはずっといい。

ただ、楽天モバイルは微妙に「これが試験サービスである」といういい方を避けてきた。発表会では海外メディアの記者から「延期といういい方をしなかった」と質問で詰め寄られ、「ちゃんと理解されていたはず」と回答しているが、筆者も「試験サービスと素直に名付けるべき」とは思うし、あまりに腹芸的コミュニケーションだな、とは思った。

楽天モバイルは、「無料サポータープログラム」中にも通信障害を起こしている。今回の発表会でも山田社長は「今後はああいったことが起きないように取り組んでいきたい」と反省の弁を述べた。試験サービスの中で起きたことなので、影響範囲が限定されていたともいえる。

ただ、MNPを受け付けた関係で、メインの回線を移動した人もいたようだ。そういう間違いを起こさないためにも、「試験サービスである」と明確に謳った上で、MNPは受け付けるべきではなかった、と筆者は考える。

楽天モバイル、2019年12月10日に発生した通信障害の原因を公表

データ利用は想定よりも多い。KDDIとのローミング技術改善は朗報

過去の「無料サポータープログラム」において、通信品質がどのような状況であったのか? 筆者は記事や、知人がテストしている状況からのヒヤリングでしか知らない。「無料サポータープログラム」の抽選に落ちたこと、プレス向けのテストプログラムが当時は用意されていなかったことなどが理由だ。

評判によれば、「エリア内での通信は安定。ただし4Gとして普通の速度で、とりたてて高速というわけではない」「KDDIへのローミングとなる楽天モバイルのエリア境界付近では、通話が途切れるのが不便」という話をきいていた。

無料サポータープログラム利用者の声。エリアやローミング時の通話途切れ問題が指摘されていた

今回発表会でいくつかの情報が示されたが、その内容も、その評判を裏付けるものだったと感じている。

ポイントは、「データ利用量がおしなべて多い」こと、そして「4月の正式サービスに向けて、KDDIとのローミング方式を変更する」ということだ。

山田社長は「事前の想定では10GB前後だろうと思っていた」とのことだったが、結果的に、5,000人のサポーターはより多く、毎月15GB以上のデータを使っていたという。

無料サポータープログラムでの利用状況。無料だということもあってか、データ利用量が国内平均に比べずっと高い
楽天モバイル・山田善久社長

ただこれは、楽天モバイルの品質がどうこうより、「人々はもっと通信を自由に使いたいと思っているが、料金プランが足かせになっている」という事実を示している。楽天モバイルは、料金は未発表ながら「使い放題」を公言しているので、その方向性は正しいことがわかる。ただこの点、他社も同様の流れにはあるので、問題は「5G時代に向けて、いくらで使い放題になっていくのか」ということなのだろう。

通話品質の安定については、純粋に朗報だろう。KDDIとのローミングの方式を手直しすることで、エリア端での通話切れが解消されるという。

基地局設置状況はかなり改善が進み、4月の正式サービス時には予定を大幅に上回る予定、と楽天モバイル側は説明する。

一番問題なのは「エリア」だ。昨年10月の段階では、単に市町村区分で塗り分けたようなシンプルなマップしか示されなかったが、今回は、東名阪での詳細なマップがようやく公開された。この情報は「楽天モバイルのウェブで随時更新される」(山田社長)とのことで、ようやく普通の携帯電話事業者のようになってきた、といえそうだ。

東名阪での詳細なエリアマップ。「ようやく公開された」という印象が強い。すでに京都でも電波を出し始めたことが言及された

「使い分け」ユーザーに向くRakuten Mini

前述のように、筆者は楽天モバイルをこれまで試せずにきた。短時間、同業者などに借りて使ったことはあったが、生活の中で使うことはできなかった。

しかし今回、発表会にあわせ、楽天モバイルは「プレス向けのテスト回線」を用意してくれた。しかも貸出端末は、23日に先行発売が開始された「Rakuten Mini」だ。

Rakuten Miniを、無料サポータープログラム利用者向けに、23日より先行発売。記者向けにもテスト機が貸し出された

Rakuten Miniは3.6インチディスプレイを備えた小型Androidスマホで、FeliCa内蔵としては世界最小、と楽天モバイルは説明している。価格も21,800円(税込)とかなり安価だ。小さい端末を求めている人には気になる製品となるはずだ。

Rakuten Mini実機。3.6インチのディスプレイを使い、非常にコンパクトで軽い
裏にはちゃんとFeliCaのマークも

使ってみると、確かにこれはかわいいし、軽い。Androidスマホとしての使い勝手は、いまひとつ、というかいまふたつくらい。文字入力にもちょっと苦労するくらいの大きさだ。カメラの品質も良くない。これを唯一のスマホとして、初めてのスマホとして選ぶのはまったくお勧めしない。

一方で、テザリングにも対応しているので、PCやタブレットなどを気軽に使うためのモバイルWi-Fiルーター代わり、としても使える。ラフに半日ほど、ルーターとしてテザリングしっぱなしで使ってみたが、バッテリーは半分くらいの消費だった。丸一日付けっぱなしは難しいが、そうでなければ大丈夫そうだ。

それでいて、通話のために持ち上げて使う時は、軽くて使いやすい。筆者は日常的に、iPhone 11 Pro MaxやPixel 4 XLといった重量級の機種を使っているので、差が特に大きく感じた。

要は、タブレットと電話をうまく使い分けられるなら、かなり便利な端末ということだ。

ちょっと注意が必要なのは、Rakuten MiniはSIMカードには対応しておらず、「eSIMのみ」の対応、ということ。別の端末のSIMを差し替えて使うことはできない。SIMロックはかかっていないというが、楽天モバイルのeSIMを通信経由で組み込んで使うもの、と考えるべきだろう。

通信については、詳細な検証はまだ出来ていない。東京・大田区にある自宅や、主に山手線の内側でいろいろ使ってみた段階で、エリア問題をちゃんと云々できる状況にはない。

確かに、「Rakuten」のエリアとして、楽天モバイルの基地局につながる確率は意外と高い。自宅内も、想定したよりはちゃんとつながった。地下鉄で移動中、駅間では「うーん」という挙動も多かったし、地下ではローミングになるためかイマイチな印象だったが、屋外ならばさほど不自由は感じなかった。

通話も数回試したが、品質に問題は感じなかった。ただ、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクが実効値70Mbpsオーバーを常にたたき出すような環境でも、20Mbps程度と、速度は多少控えめ。とはいえ、4Gとしては「こんなもの」ではないか、と思う。そもそも、楽天モバイルは他の3社ほど、使える電波帯に恵まれてはいないのだから。

楽天モバイル・山田社長は、発表会で記者からの質問に対し、「今後の基地局数の増加については、計画をより精査するが、今の電波帯でも、意外とつながる。(つながりやすい)プラチナバンドのような帯域があればいいのですが、すぐには出てこないでしょう」と語る。

個人的には、楽天本社の三木谷浩史社長のぶち上げ方より、山田社長の抑制的な説明の方が納得感はある。

楽天には「携帯電話の接客改革」も期待

楽天モバイルの正式スタートは4月。本当は、商戦期を考えると3月にすべきなのだが、それは無理、という判断だろうか。確かに、いま慌てて悪評を付けるより、じっくりやって、ある意味本番ともいえる「5G」(楽天の場合には6月以降を予定している)に向けて助走した方がいい。

個人的に期待したいのは、「来店しての契約事務を短時間にすること」「eKYCを使ったネットでの手続きをすすめること」を公言している点だ。

楽天モバイルでは接客時間短縮に取り組む。事前のID登録や機種選択をウェブで終わらせることで、最短18分での終了を目指すという

携帯電話ショップでの接客の問題点は、それが「あまり快適ではない」「とにかくめんどくさい」ことだ。そのことは、携帯電話ショップをマーケティングの最前線とする携帯電話事業者にとってゆゆしき問題のはずだが、携帯電話事業者側の努力的にも、販売店側の構造的にも、改善が進んでいない。

これは、携帯電話を販売する人々にとってもビジネス上マイナスだ。

楽天モバイルは、最短の場合18分で接客を終えたい、としている。「簡単にはいかないだろう」とは思うが、そうした部分を改革していくことが、新規事業者らしさでもある。

エリア充実と同様に、そうした改革にも期待したい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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