小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第9回

日本一危険と言われる「江平五差路交差点」について考える

交通事故日本一

宮崎市民以外にはほとんど知られていないニュースなのだが、宮崎市内ほぼ中央部に位置する江平五差路交差点に、事故減少のための施策が施されることになった。(宮崎日日新聞の記事)

江平五差路。交差点自体は広く、見通しもよい

この交差点は、2017年に交通人身事故が全国で最多を記録し、NHKでも特集が組まれたことで、一躍有名になった。幹線道路2つが合流し、そこを串刺しにする形で東西を結ぶ道路が交わった結果、五差路となっているわけだが、以前はそれほど事故が多い場所ではなかった。この交差点に慣れていない人からは、難しい、わかりにくいとして不評なため、車線をカラーで色分けしたり、信号を増やすなどするようだ。

だが子供の頃からこの交差点を知っている人間からすれば、慣れていない人が事故を起こすという考え方には賛同できない。慣れているからこその危険要素が潜在的に存在する場所なのだ。ローカルな交差点の話など興味ないかもしれないが、交通ルールは全国同じである。そこにはどの街にも起こりうる危険のサンプルが詰まっているように思う。しばらく考察にお付き合い願いたい。

成長する交差点

まず江平五差路交差点(以下江平交差点)がどのような交差点であるかというところから話を進めたい。宮崎県の海岸線と平行に、南北に主要市町村を結ぶ国道10号線という道路がある。ここは片側3車線、右折専用レーンを入れればところどころ片側5車線になる、非常に交通量の多い道路だ。

これに宮崎駅前を通る、錦通りという片側2車線の道路が合流する。以前の錦通りはそれほど大きな道ではなく、交通量も少なかったが、宮崎駅のリニューアルによって駅前が発展し、それに伴って拡張されてきた。


この合流部に突き刺さるように東側から延びてくるのが、下原通りだ。この道は片側1車線とそれほど大きな道ではない。以前は宮崎港など海岸方向へ向かう小道で、それほど利用されていなかったが、2005年にこの道の延長線上にイオンモールができた。

宮崎市民からすれば、市街地からかなり遠く離れたところにイオンがぽつんとできたというイメージだった。だがこれに伴って、これまで田畑しかなかったJR日豊本線の東側が、次第に宅地化されていった。今もなお、宅地造成が盛んで、「新しい街」がどんどんできている。

この下原通りを延長して西側に延びるのが「学園通り」である。この道沿いには江平小学校、宮崎公立大学、宮崎大学付属幼稚園、同小学校中学校がある。またこの道からYの字に分岐する通りには西池小学校、宮崎西中学校、宮崎商業高校がある。

江平交差点の西側は、学校を取り囲む形で拡がる古い宅地ゾーンで、図書館や文化ホール、UMKテレビ宮崎やFM宮崎本社があり、文化的な面での中心地へ繋がっていく。江平交差点は、宮崎市の文化・商業・住宅・交通拠点の縦横斜めの導線を全部結んだところなのである。

曲がれない交差点

筆者も毎日の通勤で、この江平交差点を車で通過する。通勤時間帯の一番交通量が多い時は、この交差点の問題点が見えやすい。

筆者は学園通りから駅前へ繋がる錦通りへ右折する(青線)のだが、信号を2回、3回待たなければ右折ができない。それというのも、下原通りから学園通りへまっすぐ抜けてくる車の量(赤線)が異様に多いからだ。30年程前なら下原通り方向はほとんど人家がなかったので、朝そちらから市内中心部へ向かう車も少なかったが、すっかり様相が変わった。

直進車が異様に多く、曲がれない

右折車用に正面の信号は時差式になっているのだが、時差が10秒しかない。この広い交差点で、たったの10秒では3〜4台しか曲がれない。しかも下原通りから学園通りへ抜ける直進車も急いでいるのか、黄色信号でもどんどん交差点に進入してくるので、右折車はますます曲がれなくなる。

そうなると、右折のためにすでに交差点内に進入している右折車は、交差点から離脱するために赤信号になったぐらいのタイミングで急いで曲がらなければならない。

しかし昨今の車は、エコアイドリング機能搭載車が増えた。車の停止中は自動的にエンジンが停止し、ブレーキから足を離すとエンジンがかかる機構である。以前は軽自動車にしか搭載されていなかったが、最近は普通車や外車にも搭載されつつある。このエコアイドリングがONになっていると、どうしても発進がワンテンポ遅れてしまう。右折車の流れだしが、全体的に遅れ気味になる。

加えて問題になるのが、歩行者の存在だ。10号線方向が青信号になると、下原通りと錦通にかかる歩行者用信号も青になる(緑点線)。歩行者は目の前の信号が青になったら、左右の確認をせずにすぐに渡り出す人が多い。特に朝ジョギングしている人は、青になったとたん走って交差点に出てくる。さらに2カ所を渡りたい歩⾏者や⾃転⾞は、⼀つ⼀つの横断歩道を経由せず、2点間の最短距離で渡ろうとする(緑線)。

そうなると、いそいで脱出しようとする右折車と交差点の中で出会う事になるわけだ。筆者はまだ具体的な事故現場に遭遇したことはないが、そういう危険を何度か見かけたことはある。

交通量が多くても少なくても…

一方で、錦通りからやってきて北側へ抜けるルートにも色々問題がある。タクシーの運転手さんに聞いたのだが、駅前の信号が青になってすぐ、時速80kmぐらいで錦通を走り抜けると、江平交差点までずっと青信号のままで抜けられるそうである。ここは元々時速40km制限の道で、昼間の混雑時にはそんなことはできないが、夜も更けてくると、慣れている運転者はこの道をかなりのスピードで駆け抜けてくる。

そうなると江平交差点にも時速80kmぐらいで進入してくることになる。しかもここは、錦通りの2車線から10号線の3車線に車線が増えるため、交差点を渡るついでに車線変更する車が多い。もしなにかあったら、かなり大きな事故になり得る。

交通量の少ない夜間も危険が増す

加えて、錦通りから10号線へ抜けるのではなく、下原通り(イオン方向)へ右折する車(青線)も大変だ。ここは右折専用の矢印が出るのだが、それが出ているのが5秒間しかない。対向車線からガンガン車が流れてくる(緑線)中、たった5秒では、2〜3台捌けるかどうか、という程度だろう。

右折用信号は5秒間だけ

思うに江平交差点問題は、「わかりにくい」ことではない。交差点自体は広く見通しもいい。とにかく信号プログラムの設計が古いのだ。特にイオン方面の人口爆発による下原通りの交通量を甘く見積もりすぎており、そこが赤になってもまだ焦って右折する車を数多く生み出している。全体的に、信号に対して動きがズルズルと遅れ気味という、常にイレギュラーな状況を産み出し続けている交差点なのである。だからよく交差点内の状況を観察してから発進しないと、さらなる渋滞や、悪ければ事故に繋がることになる。これは、車線を色分けしたり、補助信号を増やしても解決しないのではないか。

それよりももっと広い視点で、イオン方向へ向かう、あるいはそちらから市街地へ向かう車を、標識等によって下原通り以外に分散させていく必要がある。東西の交通導線が、たった片側1車線ずつの1本の道路に集中していること自体がおかしいのである。

イオンのような新拠点の出現により、すぐに変化が現れれば対応はやりやすいが、それに付随する宅地造成などは10年、15年かかってゆっくり状況が変化する。そうなると、はっきりいつからと意識することなく今の状況が「そういうもの」として定着してしまい、問題点が見えにくい。県警や自治体には、ぜひ実効性のある施策をお願いしたいものである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。