小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第6回

地方は物価が安い? と「昔からのやり方で困っていない」問題

「地方は物価が安い」は本当か

ここのところ地方の交通事情の話が続いたので、今回はちょっと目先を変えて生活全般の話をしてみたい。

都市部に暮らしていると、地方の物価というものを考える機会は少ない。都市部と地方部の賃金格差が話題になったりもするが、賃金が安くてもそのぶん物価が安いからやっていけるんだろう、ぐらいの感覚である。

かく言う筆者もそういう1人であった。しかし実際に地方に腰を据えて生活してみると、そういう感覚は半分当たりだし、半分ハズレだということがわかった。

物価という面では、まず毎日の生活に直結する食材の価格が気になるところである。地方に行けば肉や魚も安いというイメージがあるが、本当にそうだろうか。複数のスーパーマーケットで価格調査してみたが、以前住んでいたさいたま市との比較では、魚類はものによってはかなり安い。

近海魚ならだいたい7割程度の価格である。一方マグロなど遠洋漁業で獲れるものについては、首都圏とあまり値段が変わらない。肉類は地元で獲れるものが多い事もあり、ざっと6割程度だろうか。

焼肉セットにも地元感があふれる

その一方で野菜類はそれほど安くはなく、さいたま市と同水準、卵はむしろ高い。きゅうりは宮崎の特産物なのでかなり安いが、野菜すべてが地元産で揃うわけではないから、輸送費がそれなりにかかるからだろう。

意外な落とし穴が、生もの以外の価格だ。全国同じものが流通する大手メーカーの調味料や香辛料、カレールー、みりん、醤油などは、価格はほぼ同じか、むしろちょっと高い。加えて洗剤やスポンジ、歯ブラシといった日用品も、宮崎のほうが高い。

つまり生鮮食料品は安いので割に合うように見えるが、日用品や消耗品が高いことで、結果的には相殺されてしまう。電気・ガスにしても、地方だから特に安いというわけではない。

宮崎県の最低賃金(時給額)を厚生労働省の資料から引くと、762円と全国でも最低ランクに近い。東京と比較すると、223円の差だ。8時間の日給にすると1784円。月20日労働で35,680円の差となる。

それでは地方での暮らしが成り立たないのではないかと思われるかもしれないが、一番大きく違うのが家賃である。戸建て借家の賃貸料で考えると、首都圏部の50%〜70%ぐらいだろう。しかも敷地面積は2倍ぐらいあり、当然ながら駐車スペース付きだ。家賃と駐車場代コストを比較すると、ここで月額数万円が浮くことで、全体的に生活コストが下がっているわけだ。

宮崎の決済事情。昔からのやり方で困っていない問題

首都圏の大手ドラッグストアでは、食材もそこそこ扱っているので助かることが多い。ドラッグストアを利用する旨みは、ポイント還元やクーポンだ。月に何度も、1点に限り15%OFFや全品5%OFFクーポンが発行されたり、ポイント還元も100円で1ポイントぐらいが標準だろう。つまり1%還元だが、これも週に1度はポイント5倍になるといったキャンペーン日がある。これらはカードや電子決済でも問題なくポイントが貯まる。

現在宮崎でも自宅近くのローカルドラッグストアを利用しているが、クレジットカードは使えるものの、ポイントが還元されるのは現金払いのみ。

さらにそのポイントカードも、会員登録が必要なわけではなく、単なる紙のカードにバーコードが書いてある程度のものである。店側としても、顧客情報が得られるわけでもないポイントカードを、コストをかけて運営するメリットがあるとは思えない。

他方で自宅の近所にあるスーパーでは、レジ周辺で「シャリーン」「シャリーン」と聞き慣れた音がする。ここではEdyとポイントカードを合体させ、オリジナルのEdyカードを発行しているのだ。一般のEdyでも決済できるが、ポイントが付かないため、あまりメリットがない。「市内どこでも使える」というフレコミでオリジナルEdyを導入しているが、正直ほかに市内で対応しているのは、コンビニぐらいしかない。

Edyのような電子マネーの導入は、レジでの決済が高速化する以外にも、店側のメリットが大きい。ご承知のようにEdyは事前のチャージが必要になる。だが店内に置いてあるチャージ機は、紙幣1枚ずつしか処理できない。つまり4,000円チャージするには、4回チャージしなければならないのだ。

そうなると必然的に客は、5,000円や1万円といった大きなお金をチャージすることになる。ある程度まとめ買いをすれば5,000円強ぐらいにはなるが、1万円チャージしていれば残りの4,000円程度が、店側へのプール金となるわけだ。つまり物販よりも先に、金が入る。

筆者も周りにつられて専用Edyカードを作ってチャージしたが、考えてみれば結局は店に現金を持っていき、Edyに詰め替えているだけだ。加えて店側に先に現金が入るというメリットがあるということは、客にとっては先に現金が出て行くという不利益があるということである。店の利益のために、せっせと客が働いていると考えるとなんだかバカバカしくなってしまい、最近はそのスーパーを利用するのを止めてしまった。

電子決済は、バスと鉄道が対応しているので、かなり利用率は高い。実店舗の対応は、コンビニなどでは東京と事情は変わらないが、スーパーマーケットやドラッグストアがあまり積極的ではなく、まだまだ現金決済が中心の社会だ。クレジットカードが使えない店はさすがに少ないが、タクシーで未だにカードが使えない会社があるのには驚いた。

確かに現金は万能ではあるのだが、コンビニや銀行が少ないのに、しょっちゅう口座から現金を引き出しておかないといけないというのは、決済のあり方がうまく噛み合っていない印象を受ける。要するに昔ながらのやり方で困っていないから「問題」なのだが、それで問題なく回るんだったら「問題」じゃないだろう、という堂々巡りである。

例えば中国のように、カード対応を飛び越えて一気に電子決済までジャンプできる可能性はあるようにも見える。しかし現金を持たなくて済むメリット、例えば財布を落とす心配がなくなるよね、といったことが、落とした財布を拾って追いかけてきてくれるような朴訥な社会の中では、どうにも見えてこないのだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。