レビュー

都内でも土星の輪が見える!? デジタル望遠鏡「eVscope 2」

天体観測に興味はあるけど、「難しそう」というイメージで敬遠している人は多いかもしれない。実際、目的の天体に望遠鏡を向け、視野に捉える(これを「導入」という)だけでもそれなりのコツが必要だったりするのだが、最近のハイエンド機は自動導入機能も備えており、敷居はかなり下がっている。

Unistellarの新型デジタル天体望遠鏡「eVscope 2」も、そんな1つだ。この製品の特徴は、とにかく簡単に扱えることである。本体の電源を入れ、スマホにアプリを入れてペアリングすれば、そのまま使うことができる。従来の望遠鏡の場合は、望遠鏡を覗くことで星をみるが、デジタル天体望遠鏡では、そもそも望遠鏡を覗く必要がない。デジタル天体望遠鏡には、デジカメに使われるような画像センサーが搭載されていて、スマホで操作して、スマホで望遠鏡からの画像を見ることが出来る。望遠鏡もスマホで動かせるし、そもそも見たい星を自動で探してくれるのだ。

操作はスマホを数回タップするだけなので、感覚的には、ネットで画像を検索するのとほとんど変わらない。全くの初心者でも、すぐに楽しむことができるだろう。

今回、このeVscope 2を試用する機会を得ることができたので、ここでレビューしてみたい。

残念ながら遠出する時間が無かったので、この雑コラ画像で気分だけでも出して欲しい

セットアップはわずか数分で完了する簡単さ

まずは、メーカーから国際便で送られてきた箱を開けてみよう。eVscope 2は天体望遠鏡としてはコンパクトな方なのだが、天体望遠鏡なので箱はそれなりに大きい。これを開けてみると、大きなリュックと三脚が見える。eVscope 2本体は、この専用リュックの中に入っているので、輸送時の振動対策としては万全だろう。

箱を開封したところ
望遠鏡本体は、リュック内にしっかりフィット

このリュックは、望遠鏡本体を中に入れ、三脚をポケットに固定し、持ち運ぶことができるようになっている。登山用リュックのように腰と胸で固定できる本格的なものなのだが、望遠鏡と三脚とリュックで重さは合計11kgもあり、実際に背負ってみると、運動不足気味の筆者にはかなり厳しい。移動はやはり自動車が基本になるだろう。

持ち運び時のスタイル。しかし重い……

セットアップは非常に簡単だ。最初に、三脚を設置する。これは水平に設置する必要があるので、上面の水準器を見ながら、気泡が中央に入るよう脚の長さを調整しよう。そして、三脚の穴の部分に、上から望遠鏡を差し込み、ネジを締めて固定。あとは、望遠鏡のカバーを外せば準備は完了だ。慣れれば1分くらいで終わってしまう。

設置で気にする必要があるのは水平のみ。赤道儀のように方角を合わせる必要は無いので、かなり楽だ

前述のように操作はスマホで行なうため、Android用かiPhone用の専用アプリケーションをインストールしよう。アプリ自体は無料で誰でもインストールできるので、事前に入れて一通り触っておくと、望遠鏡の設置時にスムーズに進められるだろう。

eVscope 2の電源をオンにして、スマホをWi-Fiで接続すれば、いよいよ観察を始められる。細かい調整機能はいくつか用意されているのだが、それは必要に応じて後でやれば良いだろう。「早く星が見たい!」という気持ちのままに、まずは動かしてみたい。

アプリの操作画面

電源投入時、望遠鏡は真上を向いている。もし真上に屋根があって空が見えないようなら、アプリ画面のジョイスティックを操作して、星が見える位置まで動かそう。このような手動の操作でも、頑張れば天体を「導入」できるのだが、eVscope 2にはとても便利な機能が用意されている。それはAFD(自動フィールド検出)機能だ。

右中央のAFDボタンを押すと、検出処理がスタート。視野内に見えている星の配置と、数千万もの星の座標を記録した内部マップを比較して、いま何が見えているのか識別する。要するに、我々がヒシャクの形を見つけて北斗七星だと認識するのと、同じようなことを計算機が自動でやっているわけだ。

AFDに成功すれば、自動導入機能が利用できるようになる。下段左から2番目のアイコンを押すと検索画面が表示されるので、ここで天体を選択。さらに右上の移動ボタンを押せば、望遠鏡がズズズッと動き始め、その天体を自動で導入してくれる。

アプリの検索画面

下に、実際の操作動画を掲載したので、参考にして欲しい。この動画では、肉眼でも簡単に見えるようなオリオン大星雲(M42)を選んだのだが、この機能が特に威力を発揮するのは、暗い天体を見るときだ。暗い天体は望遠鏡で見ても分かりにくい。これを自動で探してくれるので、初心者でも簡単だ。

AFD→自動導入の例。ここではオリオン大星雲(M42)を見てみた

eVscope 2には、スマホで同時に10人まで接続できる。そのうち操作できるのは1人だけだが、みんなで一緒に画面を見ながら天体観測が楽しめるというのは、従来には無かった楽しみ方だ。また外に出すのは望遠鏡だけで良いので、寒い冬などは、自分は暖かい部屋の中にいても構わない。実際、これはかなり楽だった。

今の夜空にはどんな天体が出ているのか知るために、スマホには星図表示アプリも入れておくと良いだろう。筆者はアストロアーツの「スマートステラ」というアプリを利用しているが、日時も自由に指定できるので、「今晩は何時頃にこの天体を観測しよう」という風に、事前に計画を立てるのにも便利だ。

ところでeVscope 2では、ニコンが協力したアイピースが搭載されているのだが、正直なところ、スマホで見るのが楽すぎて、あまり使うことは無かった。ただ、地域の星空観察会など、従来通りのスタイルで星を覗きたいような場合には、有機ELディスプレイなどによって初代よりも向上した画質を楽しめるだろう。

このアイピースを使い、従来通りのスタイルで楽しむのもアリだ

画像合成機能エンハンストビジョンの実力は

望遠鏡は反射式で、口径は114mm、焦点距離は450mm。センサーは、ソニー製の「IMX347」が搭載されている。IMX347は非常に高感度なセンサーなのだが、eVscope 2は、4秒ごとに画像を撮影し、それを合成する「エンハンストビジョン」機能を搭載。これにより、暗い天体でも明るく見ることができるというのが大きなウリだ。

なお、初代モデルの「eVscope」には、画素数1.27メガピクセルのソニー製「IMX224」が搭載されていたが、IMX347は4.09メガピクセルで、画素数は3倍近く向上している。

望遠鏡を正面から覗き込むと、十字の中央にあるセンサーが見える

この威力はとにかく絶大。筆者は千葉県市川市に住んでおり、星はオリオン座の輪郭がやっと分かる程度なのだが、そんなひどい光害(ひかりがい)の中でも、十分撮影することができた。最初は何も見えなかったのに、エンハンストビジョンをオンにして数分待つと、徐々に天体が見えてくるというのは、ちょっと感動だ。

たとえばこれはかに星雲(M1)。最初は何も見えない
10分撮影すると、ここまで浮かび上がってきた
オリオン大星雲(M42)も、ここまで綺麗に撮影できる
さすがに馬頭星雲は厳しいが、何かうっすら見えるような
アンドロメダ銀河(M31)は大きいので中央部分が見えている
都市部でさんかく座銀河(M33)まで見えるのは驚きだ

都市部の光害の中、ここまで見えるというのは正直驚きだ。ただ、都市部でここまで見えるのであれば、光害の無い地方で見たらどのくらい綺麗になるのか、非常に気になるところ。今回は残念ながらその時間が無かったのだが、機会があればまた試してみたい。

なお、このエンハンストビジョン機能について、撮影時間の長さで見た目がどう変わるのか、かに星雲(M1)で試してみた画像が以下になる。オンにする前のライブ画像だと何も見えないのだが、オンにするとすぐ見え始め、徐々にハッキリしていく。

ライブ画像。左上から→32秒→60秒→5分→10分→20分→35分

確かに、長時間撮影するほど良く見えるようになっているのが分かる。ただ、天体の明るさや光害の有無によっても変わるだろうが、このケースでは10分以降の変化があまり大きくないため、このあたりで撮影を打ち切っても良いかもしれない。

一方、天体望遠鏡というと、やはり木星や土星など、人気のある惑星も見たいだろう。eVscope 2の倍率は50倍と、それほど高くは無いため、残念ながら表面の縞模様がハッキリ分かるほど拡大はできないものの、土星であればしっかりリングは視認できる。

木星の撮影画像
スマホで拡大したところ
土星の撮影画像
スマホで拡大したところ

eVscope 2は基本的に、銀河や星雲など、太陽系外の天体の観測に向いた設計になっている。木星や土星はそれに比べ明るすぎるため、最大のウリであるエンハンストビジョンは使えず、通常の光学式天体望遠鏡より、特によく見えるということはないだろう。

ただ、金星、火星、土星、木星を見るためには、惑星モードを用意。これらの天体を自動導入したときには、ゲインと露光時間の値を天体の明るさに合わせて自動で調整してくれる。木星の明るさに合わせると衛星が全く見えなくなってしまうのだが、手動で調整すれば、4つのガリレオ衛星を写すことも可能だ。

露光時間を長くすれば、木星は白飛びするものの、衛星が写る
ちなみに月を撮影するとこんな感じ。ただ、月くらいならデジカメで撮った方が早いだろう

惑星を見るのであれば、天王星や海王星など、さらに遠方の天体も面白いかもしれない。もちろん、50倍では点にしか見えないのだが、これらの遠い惑星は非常に暗いため、普通に望遠鏡で探すのも難しい。自動導入なら簡単だし、たとえ点であっても、見つけられるだけで嬉しいだろうと思う。

またeVscope 2を使ってみて、何気に便利だったのがオーバーレイ機能。画像に自動で天体の名前や撮影日時を入れてくれるので、あとで画像を整理するのも簡単だ。この機能はオフにもできるので、周囲をトリミングされたくない場合にはオフにして、フルサイズで画像を保存することも可能だ。

表示される範囲の比較。これはオーバーレイ無しの場合
オーバーレイ有りにすると、四隅が削られてしまう

最先端技術で都市部でも天体観測を楽しもう

筆者は小学生のころ、親と折半でニュートン式反射望遠鏡を買ってもらい、よく星空を覗いていた。実家は新潟の山奥にあるため光害など無縁で、夜になると周囲は真っ暗。冬はほとんど晴れないことだけが難点だったが、雲さえ無ければ満天の星空を楽しむことができたのは、今から思えば羨ましい環境だった。

都市部では残念ながら、そんな星空を楽しむことはできないものの、最先端技術が詰まったeVscope 2であれば、非常に簡単に、普通なら見えないはずの天体まで見ることができる。価格は529,800円と、決して安い買い物ではないのだが、検討してみてはいかがだろうか。それだけの価値はあるはずだ。

大塚 実