レビュー

自分の希望が“ほぼ全部入り”のSurface Go LTE。パフォーマンス不足は運用でカバー

自分の希望を「ほぼ」叶える集大成的な存在

Surface Go LTE Advanced。キーボードとペンはバーガンディで統一

マイクロソフトの「Surface Go LTE Advanced」は、同社のPCブランド「Surface」シリーズの中で最も小型な「Surface Go」にLTE通信機能を搭載したモデルだ。製品の発表時から注目していたこともあり、発売とほぼ同時に3年ぶりの新たな業務用PCとして導入した。

そもそもSurface Go LTE Advancedを選んだ理由は、このマシンが自分にとってこれまでに使ってきたマシンの集大成ともいえる要素を備えていると感じたからだ。

筆者はこれまでモバイル用として11.6型のクラムシェルPC「VAIO S11」、自宅用のマシンとして13.3型のタッチ操作対応2in1「LAVIE Hybrid ZERO」と2台のWindows PCを併用。さらに閲覧端末として第6世代iPadも活用している。

移動先でPCを使うことが多い筆者にとって、11インチ以下のサイズはカバンの中に入れても面積を取らず、1kgを切る重量も持ち運びにはありがたい。また、LTE対応モデルのPCは、いつでもどこでもPCを開くだけでインターネットにつながる手軽さを体験してしまうともう元には戻れないほどの快適さだ。このあたりは2年ほど前に僚誌PC Watchでも書いているので、興味がある人は参照して欲しい。

一方、LAVIE Hybrid ZEROでタッチ操作に慣れてしまうと、タッチ操作ができないVAIO S11のもどかしさもあった。また、iPadとApple Pencilの組み合わせでペンの便利さを実感したことで、コンテンツ閲覧用の端末ではなく業務で使うPCでもペン操作をしたい、という要望も抱くようになっていた。

そんな筆者に取って、10型でLTE、タッチ操作、ペン操作に対応したSurface Goは「待ってました」と言わざるを得ない存在。もちろんすべてがパーフェクトなわけではなく、そのサイズ故にプロセッサのパフォーマンスはこれまで使っていたWindows PCよりは圧倒的に落ちるのだが、それ以外の要素があまりに魅力的であったこと、これまでも小型端末が好きで、ソニーの「VAIO type P」「VAIO X」といった小型モデルを使ってきた経験があることから、「モバイル用途の端末でパフォーマンスはある程度妥協し、運用でカバーする」と割り切り、購入に至った次第だ。

なお、Surface Goは最初にLTE非対応モデルが発表され、LTE対応モデルは2018年内のリリースが予告されていたものの、年内に登場したのは法人向けのモデルのみで一般発売はされなかった。

しかしSurface Goの発表当時からLTEモデルが欲しくてたまらなかった筆者は、フリーランスライターという個人事業主の立場で法人向けモデルを購入。スペックが高い端末ではないため、より快適に使えるようメモリ8GB、SSD128GBのモデルを選択した。その後年明けの2019年1月には一般向け販売されたので、今は誰でも購入できる。

動作の軽さが際立つ「Edge」の活用が鍵

購入前からの懸念事項であるパフォーマンス問題は、実際に使ってみると杞憂に終わった。もともと低パフォーマンスのPCを使うことに慣れていたこともあるが、Surface Goが搭載する「Pentium Gold 4415Y」が想像よりも快適であったことに加えて、当初の想定通り、パフォーマンスの低さを運用でカバーできる部分も多々あったためだ。

運用面でのポイントは「Edge」ブラウザだ。EdgeはマイクロソフトがWindowsに最適化したブラウザだけのことはあって、他のブラウザに比べて圧倒的に動作が軽い。FacebookやTwitterといったSNSサイトをChromeやFirefoxで表示すると、画面をスクロールしたときにワンテンポ遅れて反映するのに対して、Edgeは操作した通りに画面が反映される。Core iクラスのPCを使っている時はさほど感じなかった差だが、低パフォーマンスのPCで使うとEdgeの実力がはっきりわかる。

低スペックのPCで動作の軽さが際立つEdge

一方、GoogleドキュメントやGmailといったGoogleのサービスは、やはりChromeのほうが使いやすい。また、Edgeはブラウザとして必要最低限の機能しか持たないため、拡張機能やアドオンでカスタマイズできるChrome/Firefoxに比べると使いにくい部分も多い。そのため閲覧メインのときはEdge、Google ドキュメントやGmailなど特定の用途で使うサイトはChrome、とブラウザを使い分けることで、サイト閲覧時の重さはかなり解消できた。

GmailやGoogle ドライブなどGoogle系のサイトはChromeが扱いやすい

また、メモリは8GBとスペック上は余裕があるものの、しばらく使っていると重くなり、スリープから復帰した後にタッチ操作がうまく反応しなかったり、文字入力が重くなることもあった。そのため移動時などはスリープではなくシャットダウンを使うことにしたところ、もたつきについてはほぼ解消できた。Surafce Goは起動も速く、スリープと起動でそこまで大きな違いを感じていないため、この運用でなんとか対策できている。

アプリも「軽さ」を追求

利用するアプリケーションも軽さを重視。テキストエディタは万が一の時でもデータをクラウドで同期できるタイプの中でも軽くて使いやすいsimplenoteを愛用している。名前の通り非常にシンプルなアプリケーションで、画像などは一切使わずテキストのみに割り切ったエディタだが、そのぶん軽く、MarkDownも対応していて使いやすい。待望していた「左側メニューの非表示」機能も最近搭載され、かなり使いやすくなった。

動作が軽く常にクラウドと同期できる「simplenote」

画像編集は「Paint.net」を活用。Photoshopクローンとも言うべきアプリケーションで、基本的な画像編集はほぼこれでこなせる。起動も速く、本家Photoshopよりも圧倒的に軽いこともあって、モバイル用途のSurface Goはもちろん、本格的な作業のための業務用PCでも画像編集のほとんどはPaint.netで済ませているほどだ。

多機能ながらシンプルで軽い「Paint.net」

Surface Goを購入する決め手でもあった手書き機能については、Surface向けに無料提供されている「MetaMoJi Note for Surface」を使っている。手書きした内容を画像で出力できること、PDFを取り込んで書くこともできること、などが主な理由だ。PDF保存は標準機能としては用意されていないが、Windowsのプリンタ機能を使えばPDF保存はできるため、必要な機能としては十分に満足している。

無料でも機能充実の「MetaMoJi Note for Surface」

使いやすさを損なわないギリギリの本体サイズ

唯一の懸念といっていいパフォーマンスの問題が解決されたことで、Surface Goは非常に満足度の高いマシンとなった。10インチというサイズは、本体と同じ幅のキーボードはタイピングにギリギリのサイズ。経験上、これ以上小さいとタッチタイピングに無理が生じるが、10インチサイズなら慣れてしまえば十分に打ちやすい。むしろ広いキーボードよりも指の移動範囲が狭くなるため、その点では効率が上がっている。

10インチクラスのキーボードは文字入力も十分快適

本体の小ささゆえに場所を選ばないのも嬉しい。カフェなどで作業するとき、店舗によってはテーブルが小さすぎてPCと飲み物を置くのに苦労することもあったが、Surface Goなら十分に余裕を持って本体と飲み物をテーブルに置くことができる。

小さなテーブルでも問題なし

Surfaceシリーズの特徴ともいえるタイプ カバーは、以前から知人のものを操作させてもらったり、店頭展示の端末を試したりして実感があったのでさほど不安はなかったが、こちらも想定通り十分な使い心地だ。使い始めは「ぺちぺち」という打鍵音が気になっていたが、音を出したくないときはキーボードを宙に浮かせるのでは無く机に置いてしまうことで対処できている。

タイプ カバーは通常だと宙に浮いた状態になる
テーブルにぴたりと着けると打鍵音が軽減できる

なお、タイプ カバーはその名の通りSurface Goにカバーとして装着でき、クラムシェルPCのように持ち運べる。しかし、このキーボードを付けてしまうとタブレットとして使うときにわざわざ取り外す必要があったり、外したキーボードの置き場を考えなければいけないなど、取り回しの面ではやや不便に感じていた。

せっかくのタッチ対応2in1ということもあり、Surface Goはタブレットとしても活用したかったため、普段はSurface Goとタイプ カバーを分けて持ち歩き、移動中など閲覧目的のときは本体のみを、カフェや作業場などでじっくり使うときは本体とキーボードを一緒に取り出すという運用をしている。このあたりは僚誌ケータイWatchの記事も参照して欲しい

タブレットとしての活用は今ひとつ。対応アプリの充実に期待

10インチサイズのノートPCとしては非常に満足度が高い一方、課題が多いのが10インチタブレットとしての活用だ。前述の通り、今回購入したSurface Goはタブレットとしての活用をもくろんでいたのだが、Surface Goの問題というよりも対応アプリの問題で利便性が今ひとつ、というのが正直なところだ。

FacebookやTwitterはアプリが提供されているが、いずれもブラウザをそのままアプリとして表示しているだけなので使い勝手はいまひとつ。また、Facebookについてはアプリをインストールするとデスクトップ通知が自動的にオンになり、通知をオフにする方法が用意されていないようだ。プレゼン中や画面共有中にSNSが表示されるような失態は避けたく、結局アプリはアンインストールしてブラウザベースで利用している。

Twitterアプリの画面UIはほぼブラウザそのまま

電子書籍のビューワーとしても、筆者が利用しているサービスのうち、Windowsアプリを提供しているのはKindleとBookLive!程度。そのどちらもタッチ操作ではなくカーソル操作向けのUIになっているため、指だけでの操作は難しい。結果として電子書籍を読む時にはソフトキーボードを画面に表示し、タッチ操作とカーソル操作で閲覧したい本を選んでいる。

BookLive!のWindows向けアプリ。基本的にキー操作向けのUIとなっておりタッチだけでは快適に操作できない

KindleやBookLive!以外の電子書籍、例えばdマガジンや楽天マガジン、ジャンプ+などの雑誌はアプリではないもののブラウザで閲覧できるのだが、移動中の閲覧にはデータ通信が発生してしまうしページをめくるごとに読み込むので動作も重くなる。また、画面表示も最適化されていないので、画面を最大表示してページをめくろうとすると画面が拡大してしまったりと操作が難しい。

dマガジンなど雑誌系の電子書籍はブラウザで閲覧できるがアプリに比べると快適度が低い

一方で電子書籍の閲覧体験は非常に良い。Booklive!は書籍を起動するまでが手間なのだが、一度起動してしまえばページめくりも軽く、10インチのサイズを生かして漫画を見開きで読んだり、文字の細かい雑誌を縦表示で読んだりと非常に便利だ。鶏か卵かという話ではあるが、Windows端末をタブレットとして活用するためにも、こうした電子書籍端末のWindowsアプリ対応を期待したいところだ。

10インチサイズはコミックも見開きで読みやすい
文字の細かい雑誌も縦表示ならじっくり読める

また、タブレット時の文字入力も思ったより使いやすい。というのもWindows標準のIMEには10キーモードが用意されており、さらにカーブフリックが使えるためだ。カーブフリックはあまり知られていないかもしれないがWindows Phoneでも採用されていた文字入力で、一般的なフリックでは濁点や半濁点、促音を入力するためにフリック操作が必要なのに対し、カーブフリックでは1フリックで濁点や半濁点、促音の文字を入力できる。慣れは必要だが、Windows Phoneの頃にカーブフリックを愛用していた筆者としては、片手で文字入力ができるだけでなく、操作していて楽しいカーブフリックが気に入っている。

濁点や促音も1回で入力できるカーブフリック

ただし、カーブフリックは文字入力としては完璧ではなく、パスワード入力欄などで正しく文字を入力できないこともある。Windowsをよりタブレットとして活用するためにも、マイクロソフトにはカーブフリックの対応も是非充実して欲しいところだ。

バッテリーの持ちはUSB PD対応でほぼ心配不要に

モバイル端末として気になるバッテリーは、ブラウジングを中心に使っていると4~5時間といったところ。公称する「最大約9時間の動画再生(Wi-Fi接続時)」と比べるとやや心許ないものの、バッテリーについてはほとんど心配がいらなくなった。というのは、Surface GoがUSB Type-Cでの給電に対応しているからだ。

Surface Goの電源アダプタは24Wと出力が低めなため、USB PDに対応したモバイルバッテリーでも充電しやすい。普段からモバイルバッテリーは2万mAhクラスの大容量バッテリーを持ち歩くようにしているのだが、Surface Goを購入したタイミングでバッテリーもUSB PDで最大24W出力が可能な「Anker PowerCore Speed 20000 PD」に切り替えたことで、外出時のバッテリー切れはほとんど心配することがなくなった。

モバイルバッテリーで充電できるためバッテリー切れの心配がほとんどない

一方、インターフェイスについては同じUSB Type-C×1ポートしかないため、外部機器との接続には不便だ。モバイル用途と割り切っているのでそこまで不便はないのだが、コワーキングスペースでディスプレイやキーボードを使ったり、デジタルカメラで撮影した画像をSDカードで取り込みたい、という場面に備えて、USB Type-C対応のマルチドック「JCD383」も常に持ち歩いている。

外部インターフェイスは「ほぼ全部入り」のマルチドック「JCD383」を携行して対応

このドックはフルサイズのUSBやSDカード、HDMIなどのインターフェイスを備えたドックで、USB Type-C PDにも対応。同様のドックは他にもあるのだが、本製品はHDMIで映像を出力するための「DisplayPort Alternate mode」対応が明記されているのがポイントだ。以前にDisplayPort Alternate mode非対応の製品を購入した結果画像が出なくて使い物にならない、という体験をしているため、最近はきちんと対応している製品を購入するようにしている。

モバイル利用時に欠かせないLTE回線は、UQ mobileの「データ高速プラン」を契約して使っている。他のau LTE回線と比べても爆速と評価が高く、月額980円という低価格なところがポイントだ。

月の容量は3GBと一見少なそうに思えるのだが、外出時の利用がメインのSurface Goはこの3GBもほとんど使い切れない。Wi-Fiスポットのある場所ではWi-Fiを使うし、DropboxやOneDriveなどのクラウドストレージはモバイル回線だと同期しない設定ができることもあって、ほとんど通信が発生しないのだ。一昔前はパソコンの方が通信容量が大きいという時代もあったが、今ではスマートフォンのほうが圧倒的にパケットを消費する時代なのだな、としみじみ感じる。

期待以上の使い勝手。タブレット対応アプリの少なさが課題

購入前から期待の高かったSurface Goだが、実際に使ってみるとその期待以上に便利に使えている。筆者が小型PC好きということが大前提ではあるものの、ペンやLTE、2in1、USB PDなど昨今の最新PCに搭載されている要素をほぼすべて備えており、10型クラスというコンパクトさはどこにでも持ち運べる。最近では業務はもちろん、プライベートでも積極的に持ち歩くようになった。

一方で、対応アプリの少なさは課題を感じる。PC向けUIのアプリケーションは、ただでさえ画面の小さいSurface Goでは誤操作も多くストレスもたまるし、そもそもアプリケーションが用意されていないサービスもまだまだ多い。Windows 8の頃に比べるとWindows 10のタブレットUIは操作しやすくなっており、さらなるWindows活用のためにも、マイクロソフトはもちろん各社のWindowsアプリ対応を期待したいところだ。

甲斐祐樹

Impress Watch記者から現在はフリーライターに。Watch時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。ライター以外にも家電ベンチャー「Shiftall」スタッフとして活動中。個人ブログは「カイ士伝