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NEC、新型コロナもカゼも予防する次世代ワクチン。T細胞で攻撃

NECとノルウェーの子会社であるNEC OncoImmunity(オンコイミュニティ)は、新型コロナや一般的な風邪なども含む「ベータコロナウイルス属」とその変異株に対応する、AIを活用した「次世代コロナウイルスワクチン」の開発を開始した。既存のmRNAワクチンと異なり、免疫細胞の一種である「T細胞」が感染した細胞を攻撃する仕組みを組み合わせることで、長期間ワクチン効果が持続する。

ワクチン開発を行なう製薬企業や研究機関に資金を拠出する国際基金「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が行なった公募案件に応募して日本企業として初めて採択されたもの。CEPIは、将来発生したパンデミックに対して100日以内にワクチンを開発するという「100 Days Mission」を掲げており、公募はその一環。NECは今後2年間で次世代ワクチンの設計を行なう。

既存技術では、ウイルスの遺伝子情報から有効な抗原を見つけるためには、1つの抗原に対して数カ月かかり、費用も膨大になるが、AIと既存データを組み合わせることでこれを高精度に予測することが可能になる。これにより時間と費用を大幅に短縮が可能。

利用するAIはNECとOncoImmunityが開発した抗原選択アルゴリズム。OncoImmunityは元々抗原選択アルゴリズムにおいて世界トップの技術を持っていたが、これにNECが持っていた同様の技術を組み合わせたものを投入する。CEPIが採択したのはこれらの技術の優位性が認められたため。

コロナウイルスにはアルファ、ベータ、ガンマなど複数の種類が存在するが、CEPIがベータを選出したのは、将来的なパンデミック可能性が最も高いからだという。ベータコロナウイルスには現在猛威を振るっているCOVID‑19や、一般的な風邪も含む多様なウイルスが含まれるが、今回のワクチン開発では、入手可能な全てのベータコロナウイルスのゲノム解析を行ない、共通する最適な結果をAIによって検出する。これにより、ウイルスの将来的な変異種にも対応可能で、汎用的なワクチン開発ができるという。

汎用的なワクチンは専用ワクチンに比べ、効果の面でデメリットもある。しかし、東京大学 医科学研究所 石井健教授は「汎用的なワクチンは専用ワクチンに比べて効果は低いかもしれないが、これを打っておけばある程度効果があるというものは絶対に必要」と、ベータコロナウイルス属全てに効果があることの有効性を語った。

既存ワクチンとは異なるアプローチ

既存のワクチンは「抗体」を体内に作ることでウイルスの感染を防ぐが、NECのワクチンはさらに「T細胞」による感染した細胞への攻撃も含める2重の効果によって、より長期間にわたる効果を期待するものになる。NECが既に開発したT細胞を使ってがん細胞を攻撃するワクチンの技術も応用する。

現在ファイザーやモデルナが提供しているワクチンは、「スパイクタンパク質」の部分のみをゲノム解析することで開発されている。スパイクタンパク質は、ウイルスが細胞に感染するために必要なタンパク質で、ウイルスの表面にあるトゲ状の部分。この遺伝情報を元に作られたワクチンを接種することで人間の体内で免疫機構が活性化して、スパイクタンパク質に対する抗体が作られ、感染を予防できる。

しかし、その効果が半年程度であることが明らかになっていることや、スパイクタンパク質は変異を起こしやすく、変異株が発生するたびに抗体の効果が弱まってしまう。実際に当初は95%という発症予防効果があったワクチンでも、オミクロン株では2回目接種から2~4週間で65~75%、20週後には約10%まで低下することから、3回目の接種が必要になっている。

NECのワクチンでは、スパイクタンパク質だけでなく、ウイルス全体のゲノム解析を行なうのが特徴。これを現在知られている100種類以上のウイルス群に対して行ない、AIによる「ウイルス抗原予測」によってその中から最も効果のある組み合わせを見つけ出すことで、汎用的なワクチンを開発する。作業量は本来膨大なものになるが、AIを活用することで大幅な作業時間短縮を行なう。

さらに特徴的なのは、細胞傷害性T細胞(免疫細胞の一種、T細胞)が、ウイルスに感染した細胞を攻撃することで感染を抑える仕組み。T細胞にはメモリー機能と呼ばれる能力があり、これによって抗体のみのワクチンよりも効果が長く持続することが期待されている。SARS患者に対して使用された例では効果が10年持続した例もあるという。

これらの仕組みによって免疫機構を最大限に活用し、ウイルスの変異に強いワクチンを作り出せるほか、本来、ワクチンは人種によっても効果が異なるが、これも最大公約数的に多くの人種に対応するものを開発する。

CEPIとNECの契約では、ベータコロナウイルス属共通の抗原探索(18カ月)と、非臨床試験(免疫反応試験、6カ月)を行なうことになっており、その後は臨床試験などを経て製薬会社などと開発を継続する予定。