ニュース

ヤフー×LINE経営統合は「グローバルテックジャイアントへの危機感」

ZHD川邊健太郎社長(左)とLINE出澤剛社長(右)

ヤフーとLINEの経営統合が正式発表された。日本を代表するテック企業同士の経営統合だが、その狙いは、Googleなど「グローバルテックジャイアントへの対抗」だ。月間利用者数6,743万人のヤフーグループの顧客基盤と、月間8,200万人が利用するLINEの顧客基盤を相互に活用、「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニー」を目指す。

ヤフー親会社のZホールディングス(ZHD)と、その親会社ソフトバンク、LINEの親会社の韓国NAVERらが経営統合に合意。ZHDの傘下のヤフーとLINEとなる。2019年内に正式契約を締結し、2020年10月の経営統合を予定。

統合会社の代表取締役社長 Co-CEOには、ZHD現CEOの川邊健太郎氏が、代表取締役 Co-CEOはLINE現社長の出澤剛が就任する。

グローバルテックジャイアントと戦う「ワンチーム」

発表会には、ZHDの川邊社長がLINEのコーポレートカラー緑のネクタイ、LINEの出澤社長がヤフーの赤のネクタイをつけて登場。川邊社長は、「これから統合の準備に入っていく」とし、対等経営統合を強調。「これまでの切磋琢磨の関係」(出澤社長)から、「ノーサイド。統合の暁には最強のワンチームで、日本アジアから世界をリードするAIテックカンパニーを目指す」(川邊社長)とした。

両社の統合理由は、「強い危機感と大きな志」(出澤社長)と説明。GoogleやApple、Amazon、アリババなどの「グローバルテックジャイアントの存在」を危機感の第1にあげており、「人材、データすべてが集まる。勝者が総取りする構図。強いところはもっと強くなる。2社が一緒になっても桁違いの差がある。あらゆる産業の過程において、国力や文化の多様性に影響を及ぼす。その危機感を共有している」とした。

また、川邊社長は、「課題先進国日本。テクノロジーで解決できるものがある。それがまだできていない」と語り、「ヤフー防災」アプリに自治体のLINEアカウントを統合するといった例を上げ、「日本に住む人に最高のユーザー体験。日本にフォーカスしたAIテックカンパニーを目指す」と説明。さらに、タイや台湾でのLINEのシェアを活かし、海外展開も強化する。

顧客基盤についても、LINEは若く、ヤフーはシニアまで幅広くカバーできること、アプリのLINEと、PCやブラウザでも強いヤフーで補完関係があることを強調。事業面でも、コマースに強いヤフーだが、メッセンジャーは持っていないため、連携により強化できることを強調した。PayPayとLINE Payとお互いが力を入れてきた決済サービスにおいても連携を見込む。ただし、各事業の今後の具体的にな展開については、最終契約や競争法等の法令上必要な許認可の取得完了後に説明するとした。

Fintechでも、LINE Payの海外事業や海外で展開予定の銀行事業などがシナジーの一例として挙げられる。また、両社だけでなく、ソフトバンクグループのMONETや、タクシー配車の「DiDi」と連携し、MaaSの強化も経営統合で強化できる点と説明。LINE親会社のNAVERによる検索技術やカメラアプリなども経営統合により活用していく。

両社をあわせると、社員は約2万人、研究開発費は年間1,000億円規模で、「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やBAT(Baidu、アリババ、テンセント)とは違う第三極を目指す」(川邊社長)と言及。戦略領域として「AIが全ての基盤」(出澤社長)として、AIを中心に投資。コミュニケーションやコマース、Fintech、広告などに展開していく。

“ペイ”はスーパーアプリのパスポート。世界「第三極」を目指す

統合会社では、取締役会の下部組織として「プロダクト委員会」を設置。新会社で展開するサービスやプロダクトについての意思決定を行なう。ZHDとLINEのグループ間で重複するプロダクト(決済、ニュースなど)の統合や棲み分けなども、同委員会で決定する。そのため、具体的なサービスの統合、継続、取捨選択などは、統合会社発足後から検討され、それまでは「お互い切磋琢磨していくことになる」(出澤社長)という。

具体的なサービス戦略などは、統合会社が立ち上がってからとなるが、GAFAやBATに対抗する軸について、ZHD川邊社長は「LINEのスーパーアプリ化。多くのサービスを揃えて、ユーザー体験を共通化する。そこが差別化につながる」と説明した。

また、PayPayとLINE Payの共通化については、「統合後からの検討事項だが、キャッシュレス化は進んでいるとはいえ、まだキャッシュ7割。残りの3割のキャッシュレスもほとんどクレジットカードで、ついでSuica、WAONなど。コード決済はまだ3~5%。ただ、この分野はスーパーアプリがパスポートになる。だからまだ切磋琢磨(競争)して伸ばし、取扱高を伸ばす段階」としており、当面は従来どおりにPayPay、LINE Payのそれぞれが個別に事業展開する。

川邊社長は、「(LINEの親会社の)NAVERも、LINEが非連結になるという判断をしてでも、アジアのAIテックカンパニーを作ろうという意気込みに賛同してくれた。みな志はひとつで、世界第三極になる」と強調。一方で統合までは、それぞれが従来どおりに事業展開するため、「今日、社員には思いっきりLINE と戦えといってきた。現場は切磋琢磨してほしい。我々はチームワークを殴り合いながらチームワークを作っていく」と語り、出澤社長も、「同じです。統合までは、とにかくよりよいサービスを作り、成長した形で統合の日を迎える。それしかない」とした。

なお、LINEはメルペイやドコモ、KDDIらとモバイルペイメントについてのアライアンスを組んでいる。各パートナーとはこれから話をしていくという。

「LINEの次」の創造で統合実現へ

LINE出澤社長によれば、経営統合のきっかけは「お互い年に1度ぐらい意見交換しており、その中から始まった。川邊さんは会うたびに『なんかでかいことしましょう』と言ってきた。いつもはそれだけだったが、今年は思うところがあり『ぜひ一緒に検討を』ということで両社の親会社とも議論しながら、今日を迎えた。LINEは、古くは『スマートポータル』、いまは『LIFE on LINE』と、いまでいうスーパーアップ、スーパーアプリをずっとやってきた。グローバルの強いプレーヤーが出てきたなかで、今手を取って次のステージに進むタイミングだろうと判断した」と語る。

ZHD川邊健太郎社長(左)とLINE出澤剛社長(右)

ZHD川邊社長は、「いままでフラれ続けていたが、今年は感触が違った」として、協議を進めたことを紹介。まずは両社の現場サイドで話を進めたうえ、6月頃にソフトバンクの宮内社長や、LINEの親会社であるNAVERを含めた協議に入ったという。ソフトバンクグループの孫正義会長が主導という報道もあるが、「孫さんは関与してこなかった。ソフトバンクKKや取締役会の範囲で、9月に検討中であることはプレゼンした。シンプルに話したところ、『100%賛成。日本のためアジアのインターネットのためにスピーディにやってほしい』と言われた。孫さんの関与は、その一回限り」と、孫氏の積極的な関与については否定した。

なお、日韓関係悪化に伴う、審査への影響については「特に影響はないと考えている」(川邊社長)と説明。また、LINE Payなど決済事業への積極投資の負担が統合を促したかとの質問については、「ピースのひとつではあるが、そうした個別の事象より、大きな流れへの危機感がある」(出澤社長)と語った。

今後の統合の進め方については、「第一歩は、川邊・出澤の2人が同じ役職でコミットしていくこと。明日からすぐはじめる」(川邊社長)と言及。出澤社長は、「座組はいいものができたと思うが、組織に血液が流れることが本当に大事なこと。そこをいきいきと融合するのがテーマ。また、LINEとライブドアの経営統合のときには『LINE』という強いサービスができたことが、融合に役立った。組織的な手当だけでなく、新しいサービスこそシナジーを倍加させる。そういう新しい価値や成果にこだわっていく」と語った。