ARROWS × ケータイ Watch

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ARROWS NX F-05F 開発ストーリー

「Super ATOK ULTIAS」誕生秘話 〜始動篇〜

5月30日にドコモから発売された富士通製スマートフォン「ARROWS NX F-05F」。これまでにない快適な文字入力を可能にするという文字入力システム「Super ATOK ULTIAS」が最大の特長として打ち出されている。

ARROWS NX F-05F

これまで「文字入力」をこれほど大きく取り上げたスマートフォンがあっただろうか。他社がCPUやカメラ、電池持ちなどを訴求するなか、なぜF-05Fは「文字入力」なのか。開発プロジェクトの発足からリリースに至るまで、果たしてどんな経緯をたどって「最高の文字入力」が生まれたのか、そしてそこにどんな苦労があったのだろうか。その裏側を追った。

スマートフォンの性能向上に見合わない? 文字入力への不満

スマートフォンのスペック競争も、ひとまず落ち着いてきた感がある。

CPUやメモリ容量といった基本スペックから始まり、カメラやディスプレイなど、ひたすらに高性能化を進めてきたスマートフォン。最近は「バッテリー持ち」が大きなポイントとなっていたが、その点に関しても、例えば前シーズンにARROWS NX F-01Fが「3日持ち」を謳うなど、実用上はまったく問題にならないほど進化が進んだ。

そんな状況下、「ユーザーからの文字入力への不満が高まってきた」と、Super ATOK ULTIASの商品企画を担当した吉田雄一氏は打ち明ける。

「やはりタッチパネルの宿命といいますか、PCのようにタッチタイピングもできませんし、フリック入力時などのフリックミスなどにも不満が集中していることがわかりました」(吉田氏)

不満が少なくなってきた最新スマートフォンにおいては、不満点はもはや、ほとんど文字入力部分だけに向けられているのではないか、というわけだ。実際、富士通が実施したユーザー調査でも、それを裏付ける結果が得られていた。

文字入力を、あらゆる"構成要素"に分解、検討

そうした中、今からおよそ1年前の2013年春、「最高の文字入力搭載ARROWS」は、2014年夏の新モデルのコンセプトとして立ち上がった。吉田氏を含むプロジェクトチームを発足。実質5、6人のメンバーでベースとなるコンセプトから練り始めた。

文字入力を売りにするからには、他社との明確な差別化、ユーザーメリットの提案が必須となる。「他よりも多少良い、という程度だと、何万円もかけてその機種を買い替える動機にはならない」と冷静に分析。数万円の価値に見合ったものにできるかが重要であると考え、「ソフトウェア、企画、UIなど、それぞれを担当する関連部署と毎日話し合った」という。

「企画と開発のあいだで、本当に色々な意見を出し合いました。普段スマートフォンの文字入力を使っていて不便な部分など、いわゆる「あるある」ネタからも機能案をふくらましていきました」(吉田氏)

文字入力とひとことで言っても、それに関係する要素はアプリだけでなく、端末のほぼ全域にまたがると言ってもよい。

ユーザーが物理的に触れるタッチパネルをはじめとするハードウェアはもちろんのこと、そのハードウェアを駆動するためのソフトウェア、文字入力と密接にかかわる文字編集のためのUI、キーボードと周辺のデザイン、キータッチ時や画面遷移などにおけるエフェクト、それらを包含する「何をすればどうなるのか」を直感的にわかるようにする「アフォーダンス」としてのあり方など、考えるべき要素は膨大にある。

たとえばハード面では、吉田氏が第一に考えたのは、タッチパネルの操作感だ。

「タッチパネルの精度は、フリック操作の正確さを左右するのはもちろんですが、「ケータイ入力」にとっても死活問題になってきます。ケータイ入力では、タッチパネル上のボタンを複数回連続して押すことで文字入力しますが、タッチパネルの精度が悪いと、4回押したつもりなのに5回押したことになってしまう、といったことが頻発します」(吉田氏)

ソフト面では、もちろん日本語入力にとって避けては通れない「変換」の部分がきわめて重要となる。

「スマートフォンを使っている日本人なら誰もが経験していると思いますが、自分の欲しい変換候補がなかなか出てこないというのは、非常にストレスがたまります。これは変換エンジンの問題ですね。あるいは、間違えて変換を確定してしまうと、いちど文字を削除して、もう1回入力して変換して--------というのが非常に手間になります。これは変換UIの問題と言えるでしょう」(吉田氏)

プロジェクトチームは、現状を多角的に、細かく分類し、課題として洗い出す作業をスタートした。と同時に、IMEにとってキモになる変換辞書の内容検討も並行して進められた。

「文字入力って、本当にいろいろな要素でできているんです。文字を打つところ、変換するところ、編集するところ--------。それらの各部分の課題を全て洗い出し、それを全部突き詰める。1つだけやってもダメ。包括的にやって、心地よく使えるようになるまで、各要素の完成度を引き上げていきます」(吉田氏)

それが、最高の文字入力のためにはまず、不可欠だった。

文字を打つ、変換する、編集する--------。あらためて「日本語の文字入力」を突き詰めるところから、すべてははじまった

ジャストシステムへの提案、その反応は

2013年初夏。企画チームは、洗い出した全ての課題と、それに対応する要件をまとめ上げ、ソフトウェア開発統括部 東條潤氏が所属するソフトウェア開発チームに提示する。多数挙げられた要件のうち、技術面やコスト面、スケジュールなどの面で実現性を検討するためだ。

キャリアへの商品提案の日も迫っていた。富士通はそこで自社の端末を2014年夏モデルのひとつとして提案することになっている。それに間に合うよう、要件の検討や、現実的でないと判断された箇所の見直しなど、調整を繰り返した。

また、スマートフォン史上最高の日本語入力システムを開発するためには、すでに最高峰としての定評がある、ジャストシステムの「ATOK」の変換エンジンを採用させてもらうことが必須であった。

そこで、この頃ジャストシステムにも、スマホ史上最高の文字入力をコンセプトにした新ARROWSの構想について相談を持ちかけた。

「正直驚いていたと思います。文字入力を、いわばその端末の「売り」にするというコンセプトに対して、そこを一番の売りにして、本当に大丈夫なのか?という感想だったのではないでしょうか」

東條氏はそう当時を述懐する。

頭の片隅にあった懸念

ジャストシステムには、日本語入力が必要となるあらゆる場面でATOKを使ってほしいという思いがあり、プリインストールモデルにもそういう機会がもらえるなら、ということで、「Super ATOK ULTIAS」の共同開発が決定した。富士通側の熱意が伝わったのだろう。

ジャストシステムの全面的な協力は得られた。だがそれでも、吉田氏と東條氏の頭に懸念はあった。

「文字入力が、本当に新しい端末の「売り」になるのか--------」

2カ月かけてジャストシステムと協議し、とうとう実際の仕様としてまとめた最高の文字入力----名付けて「Super ATOK ULTIAS」の構想を引っさげ、商品として無事採用されることが決定した。

......しかし両氏の頭にあった懸念は、「Super ATOK ULTIAS」の試作バージョンを用いたユーザーレビュー、そして社内レビューが実施されたとき、現実のものとなってしまう。

「Super ATOK ULTIAS」は、社内レビューでことごとく、「使えない」という烙印を押されてしまったのだ。

<後編へ続く>

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